trouble night

 

 

 

 

 「さて、 どうする夕食。 二人で出かけるかい?」

  恭生の胸の内も知らぬ顔でジェフリーはにこやかに訊ねてきた。

  その機嫌の良さがまた怖い。

 「………なんか、 外食するの面倒になってきた。 兄さんがいないんじゃスポンサー無しだしな………」

  逸生にいい物をご馳走してもらおうと思っていた恭生は、 結局自分でお金を払わなければならないと

考えると出かける気が失せた。

 「俺がご馳走してあげるよ?」

  そんな恭生の考えを見越したのか、 ジェフリーが申し出る。

  その言葉に恭生は一瞬その気になったが、 ふと考えた。

  ご馳走する代わりに何かとんでもないことを要求されそうだ……

  自分の恋人に対して失礼極まりない考えだ。

  しかし今までの経験から恭生はそれが絶対に無いこととは言いきれなかった。

 「…………………いい、 台所に何かあるだろうし、 適当に飯作って食う」

 「恭生が作るのかい?」

 「お前も作るのっ」

  恭生の手料理? と目を輝かせるジェフリーを恭生はきっと睨みつけた。

  今から疲れてしまいそうだった。









 「ジェフリー、 そこのレタスとってくれ」

  結局、 棚にあったミートソースの缶を見つけた二人はパスタとサラダを作ることにした。

 「ジェフリー?」

  テーブルに置いた野菜を取ってもらおうと背後にいるジェフリーに声をかけたが、 しかし応えがない。

  振りかえるとそこにいるはずの恋人の姿はなかった。

 「あいつ………どこ行ったんだ」

  自分一人で料理させる気かとむっとした恭生の耳に、 廊下をこちらに歩く足音が聞こえた。

 「ジェフリー! お前何してんだよ」

 「恭生、 その格好じゃ服が汚れるだろう。 エプロンを見つけてきたから、 ほら」

 「エプロン?」

 「恭生は手が離せないだろう。 俺が付けてあげるよ」

 「え、 ちょっと……!」

  箸を持った恭生が止める間もなく 、ジェフリーはさっさと背後に回ると手に持っていた布を恭生の首にかける。

 「えっ えっ 何……」

  戸惑っている間に、 さっさと背中で紐をキュッと結んだジェフリーは前に回って満足そうに恋人に見蕩れた。

 「うん、 思ったとおり良く似合う」

 「………っ!」

  自分の姿を見下ろした恭生は絶句する。

  どこから見つけてきたのか、 それは薄いピンク地の細かいフリルのついたエプロンだった。

 「なんだよこれはっ!」

 「だめだよ、 せっかく着せてあげたのに」

  真っ赤になって脱ごうとする恭生の腕をジェフリーがさえぎる。

 「お前………っ」

 「あっ 恭生! お湯が吹いてる!」

 「えっ? うわっ!」

  文句を言おうとした恭生は、 後ろを指差すジェフリーに振り返り、 パスタをゆでている鍋が吹き零れそうに

なっているのに慌てて飛びつく。

  火を小さくして危うく湯が吹き零れそうになるのを防ぐ。

 「ふう………」

 「さあ、 さっさとサラダ作ってしまおうか。 恭生、 そのソースも温めるんだろう」

 「あ、 うん…」 

 「俺がサラダ作るから、 その缶からソースを鍋に移して火にかけてくれ。 パスタももうすぐ茹で上がるだろうし、

急がないと麺がのびてしまうよ。 ほらほら」

 「あ、 ああ……」

  てきぱきと動くジェフリーにつられて恭生もソースの缶を手にする。

  そのまま皿を出したりフォークを出したりとあれやこれや指図されるうちに料理の方も出来上がる。

  ミートソースのいい匂いがただようころには空腹さに気を取られ、 恭生は自分の格好のことはすっかり頭から

抜けてしまっていた。







                 NGTOPへ