FEED  (中編)

 

 

 

   「朔巳?」

  シャワーから出た多谷はベッドに凭れて眠る朔巳の姿を見つけて苦笑した。

 「風邪ひくぞ、 こんな格好で」

  揺り起こそうとするが、 あまりに気持ち良さそうに眠っているので伸ばした手を止めてしまう。

  すやすやと、 いい夢でも見ているのかうっすらと口元に笑みさえ浮かべている。

 「ったく、 いいのか? そんな無防備で。 自分が今どこにいるのかわかってるのか?」

  多谷は隣に腰を下ろし、 朔巳の寝顔を覗きこんだ。

  まあ、いいかと考えながら、 でもキスくらいはと悪戯心を出して顔を寄せる。

  朔巳のうっすらと開いた唇に自分の唇を近づけ、 もう少しというところで、

  くちんっ!

  朔巳が小さくくしゃみをした。

  フェイントをつかれた多谷は、 そのまま動きをとめてしまう。

  すると、 近くに温かい体温を感じたのか、 朔巳が多谷に体を摺り寄せてきた。

  そのまま肩に凭れるようにしてまた寝入ってしまう。

  その様子を呆然と見ていた多谷は、 しばらくじっとしていたが、 やがて小さくため息をつくと

ベッドからシーツを引き下ろした。

  そのままシーツで朔巳の体を包むようにして腕の中に抱き寄せる。

 「やれやれ……何してんだか…」

  多谷はテーブルの上からタバコを取り上げると、 朔巳を起こさないようにそっと一本

口にくわえた。











  タバコの香りが鼻につき、 朔巳はふと目を覚ました。

  一瞬自分が今どこにいるのか分からなかった。

  ただ温かいなあと感じる。

  もぞもぞと動くと、 体を包んでいた温かい重みが一緒に動いた。

 「朔巳? 起きたか?」

  その声に一気に目が覚めた。

 「和春……っ」

  見ると、 多谷がすぐ上からこちらを覗き込んでいた。

  あまりの近さに飛び起きる。

  慌ててまわりを見ると、 自分がいつのまにかシーツに包まれていることに気付いた。

  床に座りこむ多谷の腕の中で胸に凭れて眠り込んでいたのだ。

 「俺、 いつの間に……起こしてくれれば…」

  恥ずかしさに真っ赤になる。

 「いいさ。 朔巳の寝顔を初めて見れた」

  多谷は悪戯っぽくそう言った。

  ますます頬が赤くなる。

 「でもちょっと落ち込んだ」

 「え?」

  多谷の言葉に朔巳は赤くなった顔をかすかにあげた。

  言葉の意味がわからない。

 「あんまり安心して寝られると、 反対に俺のこときにしてないんじゃないかって心配になる」

  そんなに俺って安全そうに見えるか?

  腕の力をこめて、 多谷は朔巳の耳元に囁いた。

  意味を悟った朔巳の表情が変わる。

 「あ……」

  真っ赤になったまま、 困ったように俯いた。

  そんな朔巳にさらに多谷は甘く囁いた。

 「朔巳、 愛してるよ。 ……何回言っただろうな、 この言葉」

  言外に朔巳に言葉を促がす。

  まだ朔巳は多谷にはっきりと自分の口から想いを告げていなかった。

  一度メールで告白しただけだ。

  多谷が朔巳の口から直接言葉を聞きたいのだということは分かっていた。

  だが、 多谷を前にするとどうしても言うことが出来なかったのだ。

  まだわだかまりがあるからというわけではない。

  ただ、恥ずかしかった。

 「朔巳?」

  そんな朔巳に、 多谷が今日こそはと目に期待を込めてこちらを見ている。

  その温かい眼差しに、 朔巳の固い口がおずおずと開いた。

 「…………俺も……」

  消え入るような小さな声でつぶやく。

 「俺も………好き」

  その言葉に多谷が大きく破顔した。

  ぎゅっとシーツごと朔巳を抱きしめる。

 「朔巳……朔巳……っ」

  苦しいほどに抱きしめられながら、 朔巳もそれに応えようとシーツの中からためらいがちに

手を伸ばした。

  多谷のシャツの胸元をぎゅっと握り締める。

  その小さな仕種にたまらなくなって、 多谷は朔巳に覆いかぶさるようにして口付けた。

  柔らかい唇を存分に味わう。

  かすかに開いた唇から舌を差し入れ、 温かい内部を隈なく探りながら甘い蜜を吸い上げる。

  慣れない朔巳は多谷の激しいキスに目が眩む思いだった。

  必死に多谷のキスに応えようとするが、 しがみつくだけで精一杯だった。

 「朔巳……いいか?」

  だから、 そう聞かれた時もとっさに意味がわからなかった。

  分からないまま何か聞かれたのだとぼうっと小さく頷く。

  多谷はそんな朔巳の様子を了承と受け止め、 腕に朔巳を抱えるとそばのベッドに一緒に

横たわった。