FEED (後編)
体にまとわりつくシーツを剥がし、
ぶかぶかのスウェットの裾から手を差し入れる。 ボディシャンプーの香りがする首元に顔を埋め、 自分と同じ香りな事に妙な満足感を覚えながら キスを落とす。 そしてまた唇に激しく貪りついた。 「ん……ん…」 朔巳がようやく意味に気付いたときには、 すでに上半身をあらわにされていた。 「か、 和春……っ」 うろたえながら自分にのしかかる多谷の胸に手をやる。 だが、 多谷はすでに夢中になって朔巳の体の探索を始めていた。 胸を唇で愛撫しながら、 片手を下半身に伸ばす。 スウェットの中に手を差し込むと、 朔巳の男性の印に直に触れる。 「だ、 だめっ 和春っ」 朔巳が真っ赤になって身をよじる。 かまわず手の中で形を変え始めるものを優しく扱いていく。 「あ……あ……っ」 頭上の朔巳の息が荒くなる。 分身の先端から先走りの蜜が零れ出す。 それを指で掬い取ると、 多谷は奥に潜む蕾に手を伸ばした。 濡れた指先で蕾に触れる。 ぐるりと周辺を撫でると、 そっと中に指先を突き入れた。 と、 朔巳の体がびくっと強張った。 「朔巳? 力を抜かないと……」 多谷が固くすぼんだまま自分の指すら拒む蕾に、 朔巳に力を抜くように促がす。 しかし未知のことに怯えた朔巳の体からは一向に力が抜ける様子はない。 「朔巳?」 さすがに不審に思った多谷は、 一旦身を離すと朔巳の顔を覗きこんだ。 怯えと羞恥に赤くなった顔を見て眉をひそめる。 かたかたと小刻みに震えてさえいる。 「朔巳? どうしたんだ?」 「だって………わからない」 「え?」 「どうしたらいいのか、 わからない………怖い……」 朔巳の言葉に多谷の目が大きく見開かれる。 「だって、 お前伊勢と………」 言いかけて、 はっと気付いた。 まさか…… 「初めて、 か?」 その言葉に朔巳は赤くなったまま小さく頷いた。 多谷の頭の中が真っ白になった。 てっきり伊勢と経験済みだと思っていたのだ。 あの時伊勢もはっきりとそう言っていたではないか。 あの野郎っ 嘘を……っ 一瞬怒りを覚えるが、 それよりも朔巳が無垢だったことに喜びを感じる。 自分はいままで散々女と経験しておいて、 朔巳に無垢さを求めるのはおかしいと 思ったが、 それでも朔巳が誰とも経験していないことに嬉しさを隠しきれない。 自分が朔巳の最初の男になれるのだ。 そして最後の…… そう心の中で強く思う。 朔巳は急に黙りこんだ多谷を不安そうな目で見ていた。 何か悪いことを言ってしまったのだろうか。 むっつりと黙りこんだ多谷は何かに怒っているように見える。 「和春……?」 おずおずと呼びかけると、 多谷ははっとしたように朔巳を見た。 「俺、 何か悪いこと言った……?」 多谷を怒らせてしまったのかと泣き出しそうになる。 多谷に嫌われたくなかった。 嫌われてしまったらと思うと、 悲しくて苦しくて怖くてたまらなくなる。 「お願い、俺を嫌いにならないで………」 なんでもするから…… そう訴える朔巳に、 多谷は表情を和らげるとそっと額に口付けた。 「嫌いになんかならない。 安心しろ……お前が嫌だと言っても絶対に嫌いになんか なってやらないから」 そう言うと、 朔巳は安心したように笑った。 その笑顔に、 無理強いは出来ないと思った。 「和春?」 静かに体を離す多谷に、 朔巳がまた不安そうな声を出す。 やっぱり何か失敗したのだろうか。 自分を抱こうとしない多谷を見て、 朔巳はしょんぼりとした。 多谷はベッドから下りると、 苦笑しながら俯いてしまった朔巳の頬を両手で包んだ。 「そんな顔するな。 別に慌てる必要はない。 ………ゆっくりいこう。 少しづつ、 ゆっくり お前をもらうことにするよ」 まだ不安そうに自分を見る朔巳に優しく囁く。 「今日はお前の言葉が聞けただけで充分だから」 安心させるように優しいキスを送りながら伝える。 大切だから、 大事にしたいからほんの少しも傷つけたくない。 今もすぐにでも朔巳を奪ってしまいたい気持ちはある。 その甘い体を全て味わいたい。 それでも多谷は自分の気持ちを抑えた。 急ぐことはない。 朔巳の気持ちは自分にあるのだから。 心だけではなく、 体も目覚めるまでゆっくりと朔巳を愛していこう。 多谷はそう思った。 「愛してるよ、 朔巳」 唇に触れるだけの軽いキスを何度も送りながらそう囁く。 「……俺も、 愛してる」 おずおずと、 でも幸せそうに朔巳も多谷に囁いた。
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