冬の瞳

 

34

 

 

 

  あやふやな世界を漂っていたエリヤの意識にかすかに誰かが叫ぶ声が届いた。

  どこかで聞いたことのある声だ……

  茫然としていたエリヤの意識がふとその声に懐かしさを覚えた。

  その声は必死に何かを叫んでいた。

  悲痛ささえ感じられる。

  どうして……

  何故そんなに必死に叫んでいるのか。

  聞こえてくる声に心のどこかが痛んだ。

  そんなに苦しまないで、 と思う。

  その声のする元へ行きたいと思った。

 







  エリヤはふっと意識を取り戻した。

  体が泥をまとっているかのように重かった。

  重くて重くてたまらない。

  それに寒い……

  体の中から凍えるような寒さに浸される。

  霞む視界の中で、 自分の上に覆いかぶさる何かが見える。

  何………?

  それはゆらゆらと前後に揺れている。

  それと同時に自分の体も揺れていた。

  はっと目を見開く。

  みるみる記憶が戻ってくる。

 「ユール………っ!」

  自分の上にいるのはユールだった。

  あれからずっと自分を犯しつづけているのだ。

 「ユー……ル……っ! やめ………っ」

  重くて動かない体を必死に動かそうとした。

  冷たく感覚のない左手はどうしても動かなかった。

  かろうじて動く右手をなんとか持ち上げようとする。

  その動作に気付いたユールが驚いたようにエリヤを見た。

 「エリヤ………まだ動けるんだ」

  ユールは突然身じろぎを始めたエリヤに驚いていた。

  もう完全に動けないものと思っていた。

  このまま意識を取り戻すことはないだろうと。

  それが………

  エリヤの視線が何かを探すように辺りをさまようことに気付く。

  それが何かに気付き、 ユールの表情が一変した。

 「………兄さんを探しているの? 残念だね、 兄さんはあっちだよ。 ほら、 僕達のことを見ている」

  その言葉にエリヤの視線が指差す方向に向けられた。

  そこにはオーティスセレンの手の者達に捕らえられたアーウィンの姿があった。

 「………アーウィン…っ」

  愛しい人の姿を目に捕らえ、 エリヤは声にならない声を上げた。

 「エリヤっ!」

  アーウィンもエリヤが自分を見たことに気付き叫ぶ。

 「ちくしょうっ! 離せっ ユールっ 離れろっ エリヤに手を出すな!」

  エリヤはアーウィンの声に力を与えられたかのように、 弱々しいながらも抵抗を始めた。

  必死にユールから逃れようとする。

 「無駄だよ。 エリヤ」

  そんなエリヤをあざ笑うかのように、 ユールは力任せにエリヤの体を抉った。

 「あ、う……っ」

  エリヤが衝撃にかすかに悲鳴を上げた。

  男達に散々に征服され今もユールと繋がる蕾から、 赤い血のまじった白濁がエリヤの内腿を伝って

床にぽたぽたと流れ落ちた。









  楽しそうにエリヤをなぶるユールの姿に、 アーウィンは今までにないほど激昂した。

 「ユールっ やめろっ!!」

  初めて見る弟の残酷な姿に、 やっと自分が信じていた弟の姿が偽りのものであったと悟った。

  騙されていた……っ

  怒りとともに同じくらいの哀しみを感じた。

  生まれたときからずっと慈しんできた弟だった。

  ずっと自分の後をつきまとい、 自分を慕ってくれた弟だった。

  よちよちと歩きながら自分を嬉しそうに見ていたユールの姿を思い出す。

  たった一人の大切な弟だった。

  それが………

 「どうしてだっ ユール! どうしてそんな……っ!」

  アーウィンの悲痛な訴えに、 ユールが酷薄な笑みを浮かべた。

 「どうして? 僕の方こそ聞きたいよ。 兄さん、 どうしてエリヤなんか選んだんだよ。 僕の方がずっと昔から

兄さんのことを見ていたのに……ずっと兄さんのことが好きだったのに!」

  自分の組み敷くエリヤを憎々しげに見る。

 「こんなエリヤのどこがいいんだよ。 いつもただ笑っているだけじゃないか。 ………僕の方がずっと綺麗だ。

勉強だって乗馬だってなんだってエリヤよりずっと頑張った! なのにどうしてエリヤが何でも持っていくんだよ!

皆がエリヤの方を見る。 セーナの剣だってエリヤを選んだ。 こんな奴……っ 奪ってやるっ! エリヤから何も

かも全部奪ってやるんだ!」

  半ば狂気を孕んだ目でエリヤを凝視する。

  そしてさらに激しくエリヤを責めたてた。

 「ユール……っ」

  アーウィンは狂ったようにエリヤを犯し続けるユールを苦しそうに見つめた。

  ユールの下でエリヤが苦悶の表情を浮かべる。

 「やめろ……やめてくれっ ユールっ!!」

  男達の手を振り解こうと力任せに腕を押し出す。

  と、

 「ぎゃっ!」

  男の一人が悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。