冬の瞳
32
杯に赤い血が少しづつ、
少しづつ溜まっていく。 それと共にエリヤの顔から血の気が失せていった。 すでに体の感覚はない。 男に犯されがくがくと体は揺れ続けているが、 もう痛みも感じなかった。 意識が朦朧としていく様子を見たオーティスセレンが、 頃合いと見てエリヤに近づいた。 「ユール、 そろそろ準備を。 もう大丈夫ですよ。」 血の気が失せ、 ぼんやりとしたエリヤの顔を優しく撫でながら身をかがめた。 「エリヤ殿、 お別れの時がやって来たようです。 ……残念ですよ。 あなたとは違う形でお会いした かった。 このように美しいあなたとお別れするのは私としても辛いです。」 エリヤは聞こえているのか、 いないのか、 ただぼんやりとした目を向けるだけだった。 オーティスセレンはそんなエリヤを見て微笑む。 「本当に綺麗だ………穢れに満ちたあなたはとてつもなく美しい。 このまま死なせてしまうのが惜しい くらいです。 ………しかしだからこそ、 闇の神の供物にふさわしい。」 「オーティスセレンさま。」 ユールが二人の側に踊るような足取りでやって来た。 その手にはエリヤの血を湛えた杯が握られている。 オーティスセレンはその杯を受け取ると血に指を浸し、 その血でエリヤの胸に呪文を記していった。 体液に汚れた胸の上でエリヤの赤い血と白い汚濁が混じり、複雑な模様を描いていく。 「ユール、 あなたも……」 その言葉にユールも衣服をするりと脱ぎ捨て、 裸身になる。 オーティスセレンはその白い体にも、 エリヤの血で呪文を施していく。 「さあ、 ユール。」 呪文を二人の体に記し終えたオーティスセレンは、 ユールをエリヤの元へと導く。 それまでエリヤの体を飽くことなく犯し続けてきた男達が体から離れ、 すっと後ろへと下がる。 「………最後はあなたですよ、 ユール。 さあ、 エリヤ殿の体をあなたのものに。」 その言葉にユールがエリヤの体に手をかけた。 「これでやっと君の体を手に入れることができる。」 ユールは酷薄な笑みを浮かべながら、 ゆっくりとエリヤに覆い被さっていった。 自分に覆い被さる青年の顔をぼんやりと見上げ、 エリヤは声もなくつぶやく。 ユー……ル…………だ、 めだ…… 「何? 何が言いたいの? ……ああ、 もう声も出ない?」 ユールは楽しそうにエリヤの体を征服していった。 オーティスセレンが小さく呪文をつぶやき始める。 「さよならだね、 エリヤ。 安心して死になよ、 後はちゃんと僕が兄さんに愛してもらうからっ」 哄笑しながらエリヤの体を突き上げる。 エリヤの目から枯れたはずの涙がまた流れ出した。
その時、 突然暗い部屋の中に怒声が聞こえた。 部屋の誰もがその声に一瞬はっと動きを止める。 戸口に一人の男が息を切らせながら立っていた。
血と欲望の匂い。 胸が悪くなりながら、 暗い部屋の中に目を凝らす。 真ん中に据えられた石の台の上を見たアーウィンの顔色が変わった。 「エリヤ……っ!」 血と体液に塗れ、 蒼白な顔でぼうっと横たわるエリヤの無惨な姿は想像を絶していた。 駆け寄ろうとしたアーウィンは、 横たわるエリヤに覆い被さる人間がいる事に気付いた。 その顔を見たアーウィンの顔に衝撃が走った。 「っ! ………ユ……−ル……っ?!」 それは1年前に死に別れたはずの弟の姿だった。
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