冬の瞳

 

26

 

 


  アーウィンはもやもやとした気分のまま、 宿への帰り道を歩いていた。

  届けられた伝言では急ぎ伝えたいことがあると言っていた宿の主人は、 アーウィンが顔を見せると

どこかしどろもどろに話をするだけだった。

  しかも内容はこの間聞いた話とたいして変わらない。

  顔をしかめるアーウィンに、 主人はこびへつらうような笑みを浮かべ、 いろいろな食事などを並べてみせた。

  結局、 何も収穫のないまま宿を後にしたのだ。

  先日とは打って変わった主人の態度に疑問が残る。

  何故、 わざわざ自分を呼び出したのか。

  すっきりとしない気分を抱えて、 アーウィンはエリヤが待っているだろう宿への帰り道を急いだ。







 「エリヤ?」

  扉を開けたアーウィンは、 しかし人気のない部屋の様子に眉をひそめた。

  出かけるときにはベッドの中にいたエリヤの姿がない。

  食事かとも思ったが、 先程通ってきた階下の酒場で彼の姿を見た覚えはない。

 「……出かけたのか?」

  あれほど部屋にいるように言っておいたのに……

  自分の言葉に従わず勝手に宿を出たエリヤに、 アーウィンは顔をしかめて舌打ちした。







  数刻が過ぎた。

  外には夜の帳が降りかけている。

 「一体どこに行ったんだ!」

  悶々と部屋で待っていたアーウィンは、 一向に帰ってこない様子に苛立った声を出した。

  こんなに長い間宿を空ける理由がわからない。

  何かあったのだろうか。

  それとも……

  セレンと一緒にいるエリヤを思い出す。

  誰かと……あの男と一緒なのか。

  今ごろ何を……

  二人が一緒にいるところを想像してたまらない気持ちになったアーウィンは、 椅子から立ちあがると

苛々と部屋の中を歩き回った。

  もしかして……

  ふと頭の中に別の考えが浮かぶ。

  ユールのことが気になって、 自分の後を追いかけたのかもしれない。

  あの主人のところにいるのかも……

  そう思うと矢も盾もたまらず、 アーウィンは部屋を飛び出した。







  アーウィンの姿を見ると、 主人は何故か顔を引きつらせた。

 「これは……アーウィン様。 何かお忘れ物でも?」

  そのどこか尻の引けた様子にアーウィンの表情が訝しげなものになる。

 「ここに……俺が帰った後、 人が来なかったか?」

 「ひ、 人と言いますと……?」

  主人の額に汗が浮かぶ。

 「先日、 俺と一緒にこちらに来た奴だ。 ……プラチナブロンドの、 灰色の目をした……」

 「ああっ!」

  主人の表情が見るからにほっとしたものになる。

 「その方でしたら……いいえ、 こちらには来られておりませんが。」

  あからさまに表情を変えた主人に、 アーウィンの心に疑惑が湧いた。