「ああ………」

　 しなやかに背をそらせ、 恍惚とした表情で快楽を貪る。

　 肩先に揺れる髪の毛が金色の光をはなっていた。

　 うっとりと余韻に浸っていた彼は、 しばらくするとその目をゆっくりと開いた。

　 明るく澄んだ青い瞳が姿を現わす。

　「ふふ……そろそろ、 だね。」

　 濡れた赤い唇が淫蕩な笑みを浮かべる。

　「ほんと、 思わぬ幸運だったよ。 まさかエリヤがこの町に来るとはね。 ……しかもこの僕を探すため

だなんて。 笑っちゃうよ。」

　 ユールは行為に乱れた前髪をかきあげた。

　 白い美貌があらわになる。

　「今度こそあいつの体を手に入れる。 そして兄さんも、 この国も、 全てこの僕のものになるんだ。

ああ、 待ち遠しいよ。 エリヤの姿をした僕を兄さんが抱いてくれる日が。」

　 そう言いながら下から見上げる男に笑いかける。

　 ユールに目を向けられた男は、 彼の中に入ったままの自分のものをゆっくりと動かしながら

その手で白い肢体を撫で回した。

　「はあ……あっ　ああ……いい、 もっと……」

　 再開される行為をユールの体は喜んで受け入れた。

　 たちまちユールの瞳が快楽の色に染まる。

　 男にまたがり、 その腰を挟んだ両膝に力がこもる。

　 自らもゆらゆらとなまめかしく腰を動かし、 少しでも多くの快楽を得ようとする。

　 その様子を下から黒い瞳がじっと見つめる。

　 その目にも淫楽が色濃く出ていた。

　「……そうですよ。 あなたの望みがもうすぐ叶う。」

　 ユールを己の肉杭で突き上げながら、 ねっとりとした声で囁く。

　 快感に身を震わせるユールの腰を掴み、 その肢体を確かめるように手を滑らせていく。

　「ユール……あなたは闇の術の芸術品です。 こんなに完璧に術を受け入れた体は初めてです。

この白く滑らかな体。 傷一つ残っていない。」

　 愛おしいものを見る目で、 男はユールの体を眺める。

　「ふふふ……大神官様の素晴らしい術のおかげだよね。 あなたが僕にこの体をくれたんだもの。

あのまま腐り果てるしかなかった体を甦らせてくれた。 ……数ヶ月に一度、 腐り始めた体を新しい

ものと換えなければならないのが面倒だけど。」

　 ユールは自分の体を誇らしげに見下ろす。

　 傷一つない滑らかな体は、 実はこれまでその手にかけてきた犠牲者のもののつぎはぎだった。

　 腐り始めた箇所を闇の術によって犠牲者のものと取り換える。

　 取り換えられた体は、 しかし術の力によってその凄惨な行為の跡を残していなかった。

　 ユールには犠牲者への罪悪感などすこしも感じていない。

　 ただ自分の体が美しく甦ることだけが大切だった。

　「でもこの体とももう少しでさよならだね。 僕はもうすぐ ”エリヤ” になるんだから。」

　「そう、 肉体はあなたに。 そして彼の心は私のものに……」

　 ユールを抱き続けながら男はそう嬉しそうにつぶやいた。

　「あれほど綺麗な心の持ち主は見たことがありません。 闇の神もさぞお喜びになることでしょう。」

　「心なんか……エリヤが僕達の手に落ちてきたら、 せいぜいもてなしてあげるさ。 そのお綺麗な

心が壊れるほどに。」

　「それも一興。 ……楽しみですよ、 私も。」

　 酷薄な笑みを浮かべながら、 男は身を起こした。

　 長い黒髪がさらりと背中に流れる。

　「ああ……」

　 ユールはさらに深く貫かれ、 満足のため息を漏らす。

　「準備は整いました。 あとは彼をこちらに招待するだけです。 ……そう、 あなたの愛しいお兄様を

彼の側から離さなければなりませんが。」

　「それはなんとかして。 兄さんには知られるわけにはいかないもの。 あの兄さんの性格じゃ、 僕が

エリヤの体を奪ったって知ったら絶対抱いてくれない。」

　「心配ご無用ですよ。 ぬかりなく……」

　 眉をひそめるユールに男は婉然と微笑むと、 ユールの体を自分の下に組み敷いた。

　「あとは彼を待つだけ……彼が来るまでこの体を楽しみましょう。 この姿のあなたを抱くのは最後に

なるのですから。」

　「ふふふ……来て……」

　 ユールはペロリと舌で赤い唇を舐めると、 白い両腕で男を招き寄せた。

　 ユールの上に身を沈める男の背から艶やかな漆黒の髪が流れ落ちる。

　 顔のまわりを長い黒髪が帳のように覆う。

　 白い絶世の美貌が近づくのを、 ユールはうっとりと見つめていた。

　 あとは、 淫靡な空気がその場を支配していった。