冬の瞳

 

23

 

 

  エリヤは隣でぐっすりと眠り込んでいるアーウィンの顔をじっと見つめていた。

  ずいぶんと久しぶりに見る彼の寝顔だった。

  エリヤを罰するかのように抱くアーウィンは、 散々彼を責めたてた後はさっさと部屋を出てしまい

この部屋で、 エリヤの側で眠ることはなかった。

  しかし昨夜の彼はエリヤを抱いた後も部屋に帰ろうとせず、 さらにエリヤを求め続けた。

  そして朝、 今エリヤの側で疲れたように眠っていた。

  その顔は少しの間にずいぶんとやつれてしまっている。

  弟のことを知ったアーウィンの内心の苦悩を物語っていた。

  エリヤは瞼にかかる前髪をかきあげようと手を伸ばしかけて、 体を突き抜ける痛みに身をすくめた。

  少し身じろぐだけで下半身から鋭い痛みが襲ってくる。

  アーウィンは一晩中エリヤを離さなかった。

  まるで今確かなものはエリヤだけだというかのように、 どこか必死に彼を抱き続けていた。

  何度も何度も何かを確かめるように自分を貫き続けるアーウィンを、 エリヤはずっと抱きしめていた。

  最後にはアーウィンを受け入れている所がしびれてしまい下肢の感覚がなくなっても、 それでも自分の

中にアーウィンを受け入れ続けた。

  少しでも彼の苦しみを癒してあげたかった。

 「アーウィン……」

  音にならないほどかすかな声でそっと目の前の愛しい人の名を呼ぶ。

  眠り続けるアーウィンを見つめる目は悲しみと慈しみに満ちていた。







  アーウィンは夢うつつでそっと自分に触れる手の心地よさを感じていた。

  何度も自分の髪をかきあげるその手は優しく、 触れるたびに心が安らいでいくようだった。

  気持ちがいい……

  自分を癒すように触れつづける手に、 アーウィンはどこか安心した心地でその身を委ねていた。







  目覚めたアーウィンは、 自分がしっかりとエリヤを抱きしめていることに気付き驚いた。

  腕の中のエリヤはぐっすりと眠っている。

  自分の胸に頬を預け安らかな顔で眠るエリヤを、 アーウィンはどこか呆然として顔で見ていた。

  昨夜のことを思い出す。

  ふらふらと宿に戻った自分は、 何故かむしょうにエリヤの顔が見たくなって彼の部屋に向かったのだ。

  そしてそこでセレンと穏やかな顔で笑いあうエリヤを見た途端に、 心の中で何かが弾けた。

  エリヤを抱きたかった。

  その笑顔を自分に向けたかった。

  笑顔の先にあるセレンに憎しみにも似た嫉妬を覚えた。

  そして、 剣呑な空気を察したセレンがその場を退出したとき、 たまらずエリヤをその腕に抱き寄せていた。

  その体の温かさを感じたかった。

  どんなに抱きしめても足りなかった。

  自分の中に生まれた空洞が貪欲にエリヤを欲していた。

  その狂暴なほどの飢えを満たそうとするかのように、 ひたすらエリヤを抱き続けた。

  エリヤの中に自分を埋めているときだけ、 少し飢餓が治まった。

  だが次の瞬間にはさらに激しい飢えが襲ってきた。

  抱いても抱いても飢えは治まらなかった。

 「エリヤ……」

  眠り続けるエリヤの顔は昨夜の荒淫を物語るかのように、 疲れの影を滲ませていた。

  ひどい抱き方だったと自分でも思う。

  それでもエリヤは一言もいやだとは言わなかった。

  黙って自分の行為を受け入れていた。

  ふと夢うつつに感じた優しい手を思い出す。

  あれはエリヤだっただろうか。

 「エリヤ……一体本当のお前は……」

  昨日湧きあがった疑問が再びよみがえってくる。

  自分は間違っていたのだろうか……

  穏やかに眠るエリヤに、 アーウィンは彼のこんな安らかな寝顔を見るのは久しぶりだと思った。

  あの、 まだ幸せだった頃のエリヤがそこにいた。

  荒淫の跡を色濃く残してはいても、 その顔はどこか清らかに見えた。

 「俺は……」

  顔をゆがめるアーウィンに、 まだ答えは見えなかった。