冬の瞳

 

17

 

 

 

  アーウィンは抱き抱えるようにエリヤの肩に回されたセレンの腕と、 その腕におとなしく身を

預けているエリヤの様子を一目で見て取った。

  その目に一瞬激しい光が走りぬける。

 「……何をしている。」

  アーウィンは低くうなるような声で言った。

  そしてつかつかと二人に歩み寄ると、 ぐいとエリヤの腕を掴んで体を引き起こす。

 「あ……っ」

 「いきなり何をするんですっ 乱暴なっ」

  アーウィンの乱暴な行為にセレンは非難の声をあげた。

  じろりとセレンを睨みつけ何か言おうとしたアーウィンの動きは、 次のセレンの言葉に遮られた。

 「手荒な扱いは止めてください。 エリヤ殿の具合が悪いことに気付かないのですか。」

  アーウィンはその言葉に促がされるように眼下の顔を見下ろした。

  エリヤの顔色が青ざめ、 血の気がまったくないことに気付くと、 かすかに眉を顰める。

 「早く宿で休ませてあげた方がいいかと。」

  セレンは黙りこくるアーウィンにそう言うと、 ふらつくエリヤに手を貸そうと腕を伸ばした。

 「触るなっ」

  セレンの手がエリヤの肩に触れる寸前、 アーウィンの鋭い声が飛んだ。

  おもわず差し出した手が止まる。

 「こいつに障るな。 ……俺一人で充分だ。」

  そう言うとアーウィンはエリヤの体をひょいと抱き上げた。

 「! アーウィンっ」

 「おとなしくしろ。」

  驚いて降りようとするエリヤを、 アーウィンは抱いた腕に力をこめて押しとどめた。

  そのまま困ったような顔で立ちすくむセレンに目を向けた。

 「……すまない。 どうやら貴殿はこいつを助けてくれたようだな。 失礼な態度をとった

ことを許してくれ。」

 「かまいませんよ。 誤解がとけたのならそれで私は。」

  率直に詫びるアーウィンに、 セレンはほっとしたように笑った。

 「エリヤ殿はだいぶお疲れのようだ。 ……弟御を探しておられるとか。 あまり根を詰め

ないほうがよろしいかと……心配な気持ちは推察できますが。」

  エリヤを抱いた腕がぴくりと動いた。

  しかし何も言わず、 アーウィンは黙って頭を下げた。

  そしてそのまま背を向けて歩き出した。








 「アーウィン……私は大丈夫だ、 下ろしてくれ。」

  エリヤを抱いたまま宿に向かうアーウィンに、 エリヤが小さな声で訴えた。

  無言で歩くアーウィンの沈黙が怖かった。

  セレンと会っていたことで、 また彼を誤解させたのではないか。

  今度はどんな言葉を投げつけられるのか。

  またあの蔑みの目を向けられるのだろうか。

  そして、 またあの行為を強いられるのだろうか。

  怒ったアーウィンはさらに酷い行為を彼に強いる。

  あの気の狂いそうなほど羞恥に満ちた時間がまた来るのか。

  そう考えたエリヤの体がかすかに震えた。

 「アーウィン、 頼むから……」

 「黙っていろ、 そんな体じゃろくに歩けないだろう。 ……心配しなくても落とすような真似は

しない。」

  エリヤの言葉を遮るようにアーウィンが言った。

  その口調は案じていたような怒りに満ちたものではなく、 むしろ穏やかだった。

  長い間聞いていなかった口調に、 エリヤはおもわず頭上の顔を仰ぎ見る。

  アーウィンは視線を前方に向けたまま、 彼を見ようとはしなかった。

  仕方なく、 そのままおとなしく腕に抱かれる。

  しっかりとした腕の感触と自分を抱く胸のたくましさが伝わってくる。

  エリヤはふと恋人だった頃のことを思い出した。

  あの頃、 アーウィンは何かというとエリヤを抱き上げ自分の腕の中に抱きしめた。

  そして甘いキスを何度も贈ってくれた。

  優しく微笑むアーウィンの顔。

  目を閉じると、 あの頃に戻ったような錯覚に陥ってしまう。

  自分を運ぶ愛しい胸にそっと身を寄せた。

  抑えていた体の痛みや疲れがどっと押し寄せてくる。

  急速に意識が遠のく。

  口元にかすかに笑みを浮かべ、 エリヤはそのまま意識を失った。