冬の瞳

 

15

 

 

 

  喧騒の中、 エリヤはふらつきそうになる足を何とか動かしながら通りを歩いていた。

  昨夜の行為で頭が割れるように痛い。

  体もぎしぎしときしむようだった。

  それでもベッドに横になっているわけにはいかなかった。

  少しでも早く何かの情報を手に入れたい。

  先日訪れた被害者の家族の様子が目に浮かんできた。

  稼ぎ頭の長男を失った家族は皆疲れ果てた顔をしていた。

  死体のあまりにも惨いありさまに、 駆けつけた役人でさえ目を背けたという。

  胴体を引き裂かれ内臓を引き出された無残な息子の遺体に、 母親は気がふれてしまったまま

今も元に戻らない。

  幼い弟と妹が汚れた顔でじっとエリヤを見上げていた。

  その目には何の希望の光も見当たらなかった。

  本当にユール、 お前がやったのか……?

  エリヤは従兄弟の罪の重さを目にして、 足元が崩れ落ちてしまいそうだった。

  昔の笑顔を思い出す。

  子供の頃は自分とアーウィン、 そしてユールの3人は本当に仲が良かったのだ。

  あのユールがこんな残酷なことをするようになってしまうなんて……

  最後のユールの姿が思い出される。

  あの時ユールはエリヤを憎悪の目で睨みつけてきた。

  その目には狂気の色さえ混じっていた。

 ”君から全て奪ってやる……!”

  そう言ったユールの顔にはエリヤを慕っていた幼い頃の面影はなかった。

  これ以上罪を犯させるわけにはいかない。

  エリヤはそう心に深く誓った。

 「……何をしている、 さっさとしろ。」

  自分の心の中に入りこんでいたエリヤは、 アーウィンの声にはっと顔をあげた。

  見ると、 少し離れたところで苛立った顔をしてアーウィンがこちらを見ていた。

 「すまない……今行く。」

  アーウィンの元へと足を速める。

  途端、 体の奥に激痛が走った。

  エリヤは少し眉を顰めてそれに耐えると、 すぐに表情を元に戻した。 

  こちらに来ると見るやすぐに背を向けて歩き出したアーウィンの後を、 痛みをおし隠し

ながら必死についていった。






  あの時、 この町に入った夜、 突然激昂したアーウィンがエリヤを無理矢理奪った日から、

彼は毎晩のようにエリヤを抱いた。

  最初は必死に抵抗していたエリヤだったが、 抗えば抗うほど激昂し乱暴になるアーウィンの行為に

ついには諦め、 今はおとなしく従うだけだった。

  そんなエリヤにアーウィンは容赦ない行為を強いた。

  強引にエリヤを抱いたのは最初の時だけだった。

  抗うエリヤを無理矢理押し倒し、 彼の中にある快感を強引に掘り起こしてはいく。

  しかし自分を与えることは最後までしなかった。

  エリヤが快感に屈し、 涙を流しながら喘ぎ嬌声をあげるようになっても、 ただ手で口でさらなる快楽の

底に突き落とすだけだった。

  そして理性を失うほどになったエリヤが懇願し、 自らアーウィンを欲しがる言葉を口にすると、 やっと

自分をエリヤの中に埋めるのだ。

  時には娼婦が使うような淫猥な言葉で彼を誘うことを強いられもした。

  その後は、 必ず蔑みの言葉を投げつけ部屋を出ていった。

  エリヤは毎晩強いられる行為に、 だんだんと自分の体と精神が疲れてぼろぼろになっていくのを感じた。

  心のどこかが悲鳴を上げているのが聞こえる。

  それでも、 まだアーウィンを愛し続けている自分が悲しかった。

  アーウィンにこの心だけは知られたくなかった。

  もし知られたとしても、 エリヤを蔑みきっている彼はきっと自分を信じてくれないだろう。

  それどころか彼を篭絡するための嘘と思うかも知れない。

  そんなことには耐えられない。

  これ以上、 自分のこの気持ちまで汚されたくなかった。






 
ふと気付くと、 前を歩いていたはずのアーウィンの背中が見えなかった。

  はぐれてしまったのか……?

  エリヤはあわてて辺りを見まわした。

  しかし彼の姿はどこにも見えなかった。

 「あれ……? エリヤ殿?」

  そんな彼に声をかける者がいた。

  驚いて声のする方を振り返ると、 セレンがにこにこと立っていた。