君に降る雪のように

 

  次の日、 信濃はひどい二日酔いにさいなまれていた。

 「う〜頭痛い、 吐きそう……。」

  少し頭を動かすだけでがんがんと響く。

 「酒弱いくせに、 ビール飲むからだよ。 あんなちょっとであそこまで酔っ払えるなんて、 反対に

感心するよ。」

 「……頼むからもっと小さい声で言って。」

  信濃がまた頭を押さえる。

 「……その分だと昨日のこと覚えてない?」

 「昨日? ……ああ、 そう言えば甲斐にキスしちゃったんだっけ。」

 「! 覚えてるのっ」

 「あたたた、 だからもっと小さい声で。」

 「あんた、 それで何ともないの?」

  平然と昨晩のキスを口にする信濃に、 甲斐は面食らったように言った。

 「何ともって……そんなことないよ。 げんにこうして二日酔い……」

 「そうじゃないっ」

  見当違いの答えに甲斐がつい大声を出す。 と、 その声にまた信濃が頭を抱えた。




 「あんた、 俺にキスして何とも思わないのかよ。」

  信濃の頭痛が治まった頃を見計らって、 再度甲斐が問いかける。

 「どうして? そりゃ酔っ払っていたけど別に嫌じゃなかったし、 いいんじゃない? あ、 それとも

甲斐、 お前ファーストキスだった? だったら悪いことしたね。」

 「キスくらいしたことあるっ……ってそうじゃなくてっ あんたそう簡単に誰でもキスするのかよっ 

酔っ払ってたら誰でもいいってのか?」

 のほほんとほざく信濃に、 甲斐が苛立った声を出す。

  自分でも何故こんなに苛立つのかわからなかった。 ただ、 信濃が誰にキスすることも何とも思って

いない口ぶりなのが、 何故だか癪に障るのだ。 昨日のキスを思い出してたまらなくなる。

 「誰でもいいってわけじゃないよ。」

  そんな甲斐に信濃は急にやさしい口調になって告げた。

 「俺だってキスする相手くらい選ぶよ。 いくら酔っ払っていたからって嫌だと思ったら、 そんなこと出来

るわけないだろ。」

 「それって……あんた本気? 俺、 男だぜ? それにタイムスリップしてくるようなあやしい奴だし。」

 「男か女かなんて俺別に気にしない性質だし。 いいじゃない、 タイムスリップなんてしてくる奴滅多に

いないだろ。 最初にお前を見たとき捨てられた犬みたいに見えてさ、 なんか放っておけなくなっちゃって、

気付いたら、 お前のこと好きになってた。」

  信濃の言う”好き”という言葉がすとんと甲斐の胸の中に落ちてくる。

 ”ああ、 俺も信濃さんのこと好きだったんだ。”

  甲斐は自分の気持ちも信濃と同じであることを自覚した。

 「……捨てられた犬ってひどいんじゃねえ?」

 「あはは、 でもその通りだろ? お前、 一生懸命突っ張りながら目が不安そうに俺を見てたもの。」

 「ちぇっ」

  そう口を尖らせながらも、 甲斐はソファに座る信濃にそっと抱きついた。

 「ちくしょう、 本当なら俺、 もっと大人なはずなのに。 もっと背も高くて信濃さんよりでかくて、 年

だって4つしか変わらないはずなのに。」

 「そうだね。 でもいいんじゃない? 俺が好きになったのはその姿のお前だから。」

  そう言って信濃は抱きつく甲斐の背中をぽんぽんと叩いた。

 「待ってろよ、 すぐにでっかくなってやるから。」

 「うん、 期待してるよ。」

  信濃は微笑むと、 目の前にある甲斐の口にちょんとキスした。

  すぐさま甲斐がキスを返してくる。

  しばらくじゃれあうように互いの唇をついばんでいたが、 だんだんとキスが深まるにつれ、 甲斐が

信濃の上に覆い被さっていく。

  甲斐を見上げながら、信濃がふとつぶやいた。

 「……これって未成年猥褻行為になるのかな?」

 「さあ、 戸籍上は俺24歳なんだろ。 それともやめた方がいい?」

 「まさか。」

  薄く微笑むと、 信濃は甲斐を引き寄せる手に力をこめた。

  それに応じるように甲斐は信濃の上に身を沈めていった。