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  次の日の土曜日、 学校もなく部活も期末試験前で休みのため、 することのない恭生は来週から

始まる試験勉強をしようとして、 友達の山脇に数学のノートを貸したままだったことに気付いた。

  返してもらおうと家に電話をすると、 ちょうど出かけるところだったらしく慌てた声で謝ってきた。

 「悪い、 今から出かけるんだ。 どうしよう。」

 「お前、 もしかして高見とデートか? 明後日から試験だってのに……。 いいよ、 場所どこだ?

取りに行ってやる。」

 「あ……っと11時に新橋のゆりかもめ改札口だけど、 いいのか。 悪いな。」

 「なんだよ、 お台場に行くのか。 お決まりのデートコースだな。」

 「うるせえな。 いいだろ、 ほっとけ。」

  最近同じバスケ部の後輩高見と両思いになったばかりの山脇は、 部活中もキャプテンに呆れら

れるほど顔も態度も緩みっぱなしなのだ。

 「とにかく11時にゆりかもめだな、 ちゃんとノート持って来いよ。」

  電話を切って時計を見ると、 10時前。 恭生もゆっくりしてられない。

  急いで出かける用意をすると、 玄関に向かった。

 「恭生? どこか行くのか?」

  玄関で靴をはいていると、 奥からジェフリーがひょっこり顔を出した。

  昨日のことを思い出した恭生は、 変にジェフリーを意識してしまってまともに顔を見れなかった。

 「ああ、 ……うん、 ちょっと。」

 「一緒に行ってもいいか?」

 「え?」

  戸惑う恭生の様子に、 ジェフリーは困ったように首をかしげた。

 「都合が悪いならいいんだ。 ただいつも俺の行きたい所ばかり付き合ってもらってるだろう。 だから

恭生はどんなところに行くのか興味があったから。」

 「……いいぜ。 別にたいした用じゃないし、 それでよかったら来いよ。」

  気がつくと、 恭生はそう言っていた。





  二人がゆりかもめ改札口に着くと、 山脇はもう来ていた。 隣には高見もちょこんと立っている。

 「よお、 悪いな。 ……あれ? もしかしてそっちが例の居候か。」

  恭生を見つけて手を振った山脇が、 隣に立つジェフリーに気付いた。

 「……本物の外人だあ。」

 「高見、 ジェフリーは外人じゃなくてアメリカ人だよ。」

  目を丸くして見ている後輩に、 恭生は苦笑しながら言った。 くりくりとした目に茶色っぽいくせっ毛、

こじんまりした体の高見は一見少女っぽく見えるが、 外見に似合わず気が強く、 バスケ部に入った

当時は、 隣に立つ熊のように大きい山脇に変な敵愾心を持っていてよく食って掛かっていた。

  その熊男とひょんなことでくっついてしまったのだが。

  熊男山脇は持っていたリュックからノートを取り出すと、 恭生に手渡した。

 「じゃあこれな。」

 「ああ。」

  恭生はノートを受け取ると自分のリュックにしまい込み、 山脇を見てにやりとした。

 「遊びすぎて追試なんてことになるなよ。 部活禁止になるぞ。」

 「う、 うるせえ! そっちこそ今からそいつとどこ行くんだよ。」

 「こいつはただくっついてきただけだ。」

 「へえ。 こんなことにまでくっついてくるなんて、 よっぽど仲いいんだな。 俺らのこと言ってられ

ないんじゃないのか。」

  にやにやして言う山脇に、 恭生は真っ赤になった。

 「ばかなこと言ってないで、 さっさと行っちまえ!」

 「へえへえ。 じゃあな。」

  山脇と高見はジェフリーにも軽く挨拶すると、 そのまま改札内に入っていった。

 「ちくしょう、 あいつは。」

  まだ顔を赤くしたままつぶやく恭生の隣で、 ジェフリーが二人の消えた改札の方を見ていた。

 「恭生、 彼らはどこへ行くんだ? ずいぶんたくさん人がいるが。」

 「ああ、 お台場だよ。 人気のデートスポットだからな。」

 「お台場……。」

 考え込むジェフリーに、 恭生はなんだと首を向けた。

 「恭生、 俺も行ってみたい。 行こう。」

 「なっ、 何言ってんだよ。 言ったろ、 あそこはデートコースだって。 俺と行っても仕方ないだろが。」

 「別にデートでもいいぞ。 俺は恭生となら。」

  ジェフリーの言葉に一瞬恭生は絶句した。

 「……変なこと言うな、 デートのわけないだろが。」

  そう言いながらも恭生の足は切符売り場に向かっていた。





  ゆりかもめにのったジェフリーは、 海の上をゆっくりと進むモノレールに興味を持ったようだった。

平行して走る車を見たり、 ぐるりと大きく回って海上を進んでいく様子を面白そうに眺めていた。

  お台場に着くと土曜日ということもあって、 さすがに人が多かった。 デッキのテラス席のあるカフェ

で早めの昼食をとると、 二人はぶらぶらと辺りをぶらついた。

 「へえ、 あそこから水上バスも出ているんだ。 帰り乗って帰ろうか。」

  ジェフリーが海風に気持ちよさそうに目を細めた。

 「俺もここ、 久しぶりだな。 おい、ジョイポリス行こうぜ。 ジョイポリス。」

  恭生もさっきまでしぶっていたのが嘘のように、 楽しそうにジェフリーを人気のアミューズメント

パークに誘った。

  二人して片っ端から見てまわり遊んでいるうちに、 恭生の中にあった何かもやもやしたものは

いつのまにか薄れていき、 自然にジェフリーに笑いかけていた。

  その様子をジェフリーが眩しそうに見ている。

 「なんだよ、 こっちばっかり見て。」

  自分の方ばかり見る彼に恭生が思わず問いかける。

 「いや、 そうやってずっと笑っている恭生見るの初めてだな、 と思って。 やっぱりいいな、 笑って

いる恭生は。」

 「ばっ ばかやろ。 何恥ずかしいこと言ってんだよ。」

  優しい目でそう言うジェフリーに恭生はうろたえて真っ赤になると、 のどが乾いたと言ってさっさと

売店に向かった。 その後をジェフリーが笑いながらゆっくりと追いかける。

  売店でおつりをもらう恭生の手元にちゃんと二人分のジュースがあるのを見ると、 ジェフリーの笑み

はさらに大きくなった。