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  3日程でジェフリーはすっかり元気になった。

  元通り昼間ぶらぶらとあちらこちら出歩いては、 戦利品を恭生の部屋に持ち込み広げている。

  しかし恭生の中で何かが変わっていた。 以前までは部屋に散らかるガラクタに目くじらを立てて怒っていた

のだが、 今は学校から帰り自分の部屋に戻ったとき、 ジェフリーがいないとどこか寂しく感じる。 気がつくと

彼の姿を目で探し、 耳は彼の帰宅の音を待っている。

  そのくせジェフリーが帰ってきても、 素直に笑って 「おかえり」 とは言えないのだ。 彼の前に立つとどこか

落ち着かなくなる。 黙っていられなくなってつい憎まれ口を利いてしまう。

  恭生はそんな自分でも判らない感情をもてあましていた。




  その日も恭生はまだ帰ってこないジェフリーをいらいらしながら待っていた。

 「……遅いな。 どこまで行ってるんだ、 あいつ。」

  知らず心配口調でつぶやきながら、 何気なく恭生は机に目をやった。 そこにはいろいろなものが整然と

置かれていた。 全てジェフリーが買ってきた 「恭生へのお土産」 だった。

  この頃ジェフリーは毎日何かと恭生へお土産を買ってくるのだ。 それは小さな置物だったり、 文具品だっ

たりと何気ないものなのだが、 最初差し出されたときは恭生はその理由も無い贈り物に戸惑った。

 "恭生が好きそうだと思ったから。”

  にこにこと笑いながら言ったジェフリーの声の優しい響きに、 思わず受け取ったのだが、 それ以来彼は

必ず恭生へのお土産を持って帰ってきた。 それも恭生にだけ、 なのだ。 彼の想い人の優生へ買ってくる

のなら判る。 しかし彼が優生にも買ってきている様子は無い。

  一度理由を尋ねてみたのだが、 はっきりとした返事は返ってこなかった。 それどころか、 気に入らない

のか、 と心配そうに聞き返され、 言葉に困ってしまい結局何も判らずじまいだった。

  贈り物がいやなのかといえばそうでもない。 自分のことを考えて買ってきてくれたのだと思うと心の中が

暖かくなり嬉しくなる。 弟にではなく自分にだけ、 ということにかすかな優越感も感じた。

  それがどういう意味を持つのかを恭生は深く考えようとはしなかったが……。

  それともう一つ、 恭生にはどういうことなのか判らない、 困ったことがあった。 それは……。

 「I’m home!」

  手の中でお土産のガラスの置物を転がしていると、 玄関の扉を開くガラリという音と共にジェフリーの声が

した。

  恭生ははっと顔をあげると手の中の置物を机上に戻し、 部屋の外に出た。

  ちょうどL字になった離れの庭に面した廊下からこちらに向かって歩くジェフリーの姿が見えた。 彼は恭生

の姿に気がつくと軽く手を挙げて嬉しそうに笑った。

 「ただいま、 恭生。 はい、 おみやげ。」

 「……さんきゅ。」

  今日も当然のように差し出された小さい包みを、 恭生は複雑な顔で受け取った。

  そんな恭生に、 ジェフリーは顔を寄せて頬にキスをしようとする。

 「よせっ やめろ。」

  あわてて身を遠ざけると、 ジェフリーは残念そうな不満そうな顔をした。

  恭生が困っていること、 それは最近ジェフリーのコミュニケーションが過激になってきたことだった。

  やたらと引っ付きたがるし、 さっきのように頬にキスしようとすることなど日常茶飯事だ。 もちろん恭生は

その都度何とかジェフリーを追い払っているが。

  弟の優生など、 もともとジェフリーが自分目当てに来日したことさえ気付かなかったので

 「仲が良いねえ。」

  と、 のんきに笑って見ている。

 「何度言えばわかるんだ。 そういうことはやめろと言っているだろっ。」

 「どうして? 俺は恭生にキスしたい。 」

 「〜〜〜だからっ そういうことは簡単にすることじゃないだろ。 ここは日本だぞ。 それにお前、 優生は

どうした。 お前優生が好きなんだろ、 俺にキス迫ってどうするんだよ!」

  なおもキスをせがむ男から必死に逃げながら恭生がどなると、 ジェフリーはその動きを止め、 困ったよう

な表情をした。

 「……優生は優生だ。 君と彼とは違う。 何故かな、 今は君にキスしたい。」

 「お前何言ってんだよ、 訳わかんねえぞっ それ。」

 「俺にもわからないんだ、 どうしてなのか。」

 「……わからないまま人にキスを迫るな。 それじゃ変態だぞ、 お前。」

  一向に埒のあかない問答に、 恭生は深い脱力感を覚えた。

 「とにかくむやみやたらとキスを迫るな、 いいな。」

 「頬へのキスは親愛の印だぞ。 さっきのもただいまの挨拶だ。」

 「だからここは日本だと言っているだろっ 何度も言わせるなっ」

  また繰り返されそうな無意味な問答に、 いいかげん恭生は切れそうになった。

 「いいか。 今度こんなことしてみろ。 その場でぶっ飛ばす。」

  言い捨てて部屋に戻ろうとしたが、 その時、

 「君の体格じゃあねえ。」

  と、 のんびりとした声が後ろから聞こえた。