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  気がつくと、 自分のベッドの上だった。

  窓の外を見ると、 朝日が差している。

  恭生は一瞬自分の身に起こった事を思い出せなかったが、 壁に掛けられた藤色の着物を

見て昨夜の出来事が脳裏によみがえった。

  飛び起きようとして隣から伸ばされた腕に腰を捕らえられ、 またベッドの中に戻される。

 「え?」

  あわてて振り向くと、 ジェフリーが隣に身を横たえたままにっこりと微笑んでいた。

 「おはよう、 恭生。」

  そのまま腰を引き寄せられ、 背後から抱きかかえられるようにされる。

  呆然としていた恭生は、 こめかみにキスされてはっと正気づいた。

 「ジェ、 ジェフリーっ お前どうしてここにっ」

  みるみる赤くなりながら、 恭生がジェフリーの腕の中から抜け出そうともがく。

  そんな恭生をしっかり捕まえたまま、 ジェフリーはさらにキスの雨を降らし続ける。

 「覚えてないのか? あの後君が気を失ってしまったから、 俺がここまで運んできたんだ。」

  そう言いながら、 恭生の唇を自分の唇でしっとりと覆う。

  優しく、 それでいて情熱的なキスに恭生の頭がくらくらしてきた。

  しかし彼の唇が首筋にまで降りていくに至って、 恭生は自分の置かれた状況を認識した。

 「朝っぱらから何するっ」

  いつのまにか体の上を這っていた手を掴み上げる。

  見ると自分もジェフリーも裸のままだった。

  とっさにシーツで体を隠そうとする。

 「いまさら何を。 もう君の体は全部見せてもらったのに。」

  ジェフリーがからかうように言う。

 「う、 うるさいっ」

  ジェフリーの言葉に、 昨夜のあんなことやこんなことが頭の中をぐるぐるまわり出す。

  自分の嬌態が信じられなくて、 顔が火がついたように熱くなる。

  まともにジェフリーの顔が見れなくなって、 ますますシーツの中に深く潜り込んだ。

 「きょ〜うせい、 ほら、 出ておいで。」

  くすくす笑いながらジェフリーが声を掛ける。

  しかしシーツの山は動かない。

  恭生の恥らう様子がかわいくて愛しくて、 ジェフリーの笑みが深くなる。

 「恭生、 ほら。 朝ご飯に出ないと皆が不審に思うよ。」

  その言葉にやっと山がもぞもぞと動いた。

  シーツから目だけを出してジェフリーを見る。

  目元が羞恥に赤く染まっている。

 「……お前、 先に行けよ。 お前が出ていったら起きる。」

  手で早く行けと促がすが、 ジェフリーは笑ったまま動こうとしない。

 「だめ。 もう一度君にキスするまではね。」

 「ば……っ」

  きっぱりと言いきるジェフリーに、 恭生は言葉を失う。

 「ほらほら、 早く顔出して。 俺に君の顔ちゃんと見せてくれ。」

  そう言いながらシーツをばりっとはがしてしまう。

  抵抗する間もなく、 覆い被さってくる体に全身をシーツに縫いとめられ、 また熱い唇を

受け入れることになった。

 「んんっ……ん……」

 巧みに動き回る舌に誘い出されるように、 いつしか恭生も夢中でジェフリーのキスに応えていた。

  殴りつけようと固く握り締められていた拳はいつのまにかほどけ、 彼の首にまわっている。

  そのまま二人して昨夜の熱い時間に戻りかけた時、 コンコンとノックする音がしたと思うと

カチャリと部屋のドアが開いた。

 「恭兄さん、 おはよう! あのさ……」

  元気な声とともに優生が部屋に足を踏み入れかけ、 その状態で固まった。

  恭生達も突然の事にとっさに反応できず、 ベッドの上で抱き合ったまま凍りつく。

  先に自分を取り戻したのはジェフリーだった。

 「……やあ、 優生おはよう。 ごめん、 見てのとおりちょっと今取りこみ中でね。 悪いが

あとにしてくれないか。」

  恭生に覆いかぶさったままにっこり優生に笑いかける。

 「なっ……おまっ……なっなっ……っっ!!!」

  その言葉に、 目を見開いたまま固まっていた優生も我に返ったが、 ショックが大きすぎた

のか言葉にならず、 ふるふると震えながら口をぱくぱくさせるだけだった。

  みるみる真っ赤になっていく。

  次の瞬間、 ばたんと音を立ててドアが勢いよく閉まり、 廊下をばたばたと駆けていく足音が

それに続いた。

 「優生にはちょっと刺激が強すぎたかな。」

  ジェフリーは苦笑しながら恭生の頬に顔を寄せる。

  しかし何の反応も返ってこなかった。

  見ると恭生はまだ固まった状態のままだった。

 「恭生、 恭生?」

  名を呼びながらペチペチと頬を叩く。

  頬を叩かれてはっと正気に戻った恭生は、 すごい勢いで上にある体を押しやると飛び起きた。

 「どうすんだよっ! 優生に見られたっ」

  真っ赤になってジェフリーに噛み付く。

 「どうって……」

  恭生の慌てようにもジェフリーはどこ吹く風とばかりに肩をすくめるだけだ。

 「何のんきにしてるんだよっ 優生に見られちゃったんだぞっ おっおっ俺達のこっこんなとこ……っ」

  うわ〜〜〜っ どうすんだよっっ。 

  言いながら頭を抱える恭生の顔は赤くなったり青くなったりと忙しい。

 「大丈夫だって。 もともと優生は俺達のこと知ってるんだし、 ほら、 応援だってしてくれたしさ。」

  激しく動揺している恭生にジェフリーは慰めにもならない言葉をかける。

 「うるさいっ お前が悪いんだぞっ さっさと出て行けって言ったのに、 あっあっあんな……」

 「仕方ないだろう、 恭生との初めての朝なんだから。 ゆっくり余韻に浸りたいって思うのは

当然じゃないか。」

  平然とそう言いながら懲りずにまたしても手を伸ばしてくる。

 「いいかげんにしろっ」

  しかし今度は恭生も流されなかった。

  げいんっと拳でジェフリーの頭を思いきり殴りつけた。