N G

33

 

 「あれ、 恭生は?」

  外出していたジェフリーは家に戻ってくると恭生の姿が見えないことに気付き、 居間でお茶を飲んで

いた逸生に訊ねた。

 「さあ、 さっきまで一緒だったけど、 部屋にいないの?」

 「いなかった。 どこか出かけたのか?」

 「そんな用はなかったはずだけど?」

 「じゃあ家の中か。」

  そう一人ごちると、 逸生を一人残しさっさと居間を立ち去った。

 



  母屋をうろうろと探していると、 ふと稽古場の扉が少し開いているのに気付いた。

 「恭生? いるのか?」

  そう言いながら稽古場の扉を開けると、 恭生が舞台に向かい合うように床に座りこんでいた。

 「恭生?」

  ジェフリーはほっと息をつくと、 恭生に近寄っていった。

 「どうかしたのか? 珍しいな。 用もないのにここにいるなんて。」

  そう話しかけながら傍らに座りこむ。

  恭生はその声に、 ジェフリーの存在に今気付いたように目をぱちくりさせた。

 「ああ……帰ってたのか。 お帰り。」

 「ただいま。 で、 どうかしたのか? こんなところに座りこんで。」

  ん? と笑いかける。

  そんなジェフリーを一瞬凝視したかと思うと、 恭生の顔がみるみる赤くなっていった。

  それを見て、 ジェフリーの方が驚く。

 「恭生?」

 「なんでもないっ!」

  思わず声を出すジェフリーをさえぎるように叫ぶと、 恭生は自分の赤らんだ顔を隠すように

膝に顔をうずめた。

 「恭生、 どうした?」

  そんな恭生の様子にますます訝しいものを感じたジェフリーは、 再度離しかけながら

そっと肩に手をのばした。

  ジェフリーの手が肩に触れた途端、 恭生の体がびくっとした。

  あわてて手を引っ込める。

 「恭生? 何があったか教えてくれないか。」

  訳がわからずため息をつくジェフリーに、 しばらくして恭生が膝に顔をうずめたまま口を開いた。

 「……さっき逸生兄さんと話していてさ……。」

 「うん。」

 「お前の……やっぱりいい。」

  言いかけてやめてしまう。

 「……。」

  その様子で、 ジェフリーは逸生がしゃべってしまったのだと悟った。

 ”まったく、 あのお節介”

  内心大きなため息をつく。

  もう話すつもりはなかった。

  恭生とはこれからのことのほうが大切だからと思ったのに。

 ”また殻に閉じこもってしまったか……”

  気分が暗く落ち込んでいきそうになりながら、 ジェフリーはすぐ前にある恭生の姿を見下ろす。

  と、 あることに気付いて思わず顔がほころんだ。

  「……恭生、 首まで真っ赤だけどどうしたの?」

  その声に恭生が慌てて手で首を覆う。

  ますます顔を膝にうずめてしまう恭生に、 ジェフリーはくすくすと笑い出した。

  落ち込みかけた気分が急浮上する。

  恭生は自分を拒否していたわけではない。

  ただ照れていたのだ。

  ジェフリーがずっと想っていた相手が自分だったとわかって。

  真っ赤になりながらなおも顔を隠したままの恭生に、 愛しさがこみ上げてくる。

  今度は躊躇せずに手をのばし、 恭生の髪に触れる。

 「恭生、 顔をあげて?」

  促がす声に恭生が顔を伏せたままぶんぶんと首を振る。

 「今とても恭生の顔が見たいんだ。 腕をどけてくれないか。」

  優しく促がすが、 どうしても顔をあげようとはしない。

  強情に顔を隠す恭生に苦笑する。

  頭に置いたままの手で優しく髪をなでる。

 「……恭生、 俺のこと好き?」

  今まで何度も問うた言葉。

  そして体育倉庫でのあの時一度きり、 どうしてももらえなかった答え。

  それを今欲しかった。

  ジェフリーの問いに恭生の体が強張る。

 まだだめか、 と思った。 と、

 「……好きだ。」

  小さな声で恭生がつぶやいた。




  次の瞬間、 ジェフリーは恭生を思いきり抱きしめていた。