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  病院の検査の結果はやはり神経性の胃炎ということだった。 

  しばらくは食事などに気を付けるようにと担当医から注意をうけ、 薬と胃に良いという食物の一覧表

を受け取ると病院を出た。

 「肉より魚がいい? へえ、 芋とかごぼうとか根菜類っていうやつ消化悪いんだってさ。」

 「これで見ると洋食より和食の方が胃に負担がかからないみたいだな。」

  家に帰る道々、 表をながめて恭生が感心したように言った。

  その後をジェフリーが黙って歩く。

  恭生が何を言っても固い表情を崩さない。

  反対に恭生の方は病院を出てから不自然なくらい明るく振舞っていた。

  タクシーに乗ろうと心配そうに言うジェフリーにも、 大丈夫だと笑いとばしていた。

 「そうだ、 優生達に何て言おう。 予定よりも早く帰ると心配するだろうし胃炎で倒れたなんて言ったら

びっくりするだろうしなあ。 このこと黙っていたほうがいいかな。」

 「家にはさっき病院から連絡した。」

  どうしようと考え込みかけた恭生に、 ジェフリーがああと答えた。

 「保険証のこともあったし、 電話に出た逸生に話しておいた。 驚いていたよ、 家に帰るとすぐベッドに

放りこまれるんじゃないか。」

 「うわ、 兄さんに言っちゃったのか……。」

  家に着いた時のことを想像して恭生が顔をしかめた。

  そんな恭生を見ながらジェフリーが静かに話しを切り出した。

 「……恭生、 君は体を悪くするほどストレスをためていた。 それは俺のせい? 俺のことがそんなに

負担になっていたのか?」

  その思いつめたような口調に恭生がぱっと彼の顔を見上げた。

  ジェフリーは暗い目をして恭生を見つめていた。

 「負担て……そんな、 お前のせいじゃ……。」

  思わず反論するが、 その言葉に勢いはなかった。

  なおも見つめる彼の視線を受け止めきれず、 恭生は目をそらした。

 「お前のせいじゃない。 ちょっとこの頃ばたばたしたから……そう、 試験の勉強疲れとか合宿の練習

疲れが重なって……。」

 「恭生、 無理しなくていい。 そんなことくらいで胃を壊すほど悩むわけないだろう。 俺が君に迫ったり

しなければ……君は最初から嫌がっていたのにな。」

 「それは……っ」

 「すまなかった。 俺は強引すぎたようだ……。」

  そう言うと通りかかったタクシーに手をあげて止め、 呆然とする恭生を座席に押し込んだ。

 「先に帰っててくれ。 俺はちょっと歩いて頭を冷やすよ。」

 「ちょ……っ ジェフリー!」

  彼を引きとめようとのばしかけた手が途中で止まった。

  そんな恭生にジェフリーはかすかに笑いかけると、 ドライバーに住所を告げる。

  タクシーが走り出したときも恭生は黙ったままだった。

 



  タクシーが家の前に止まると、 恭生が降りるより先に優生と逸生が家の中から飛び出してきた。

 「恭生!」

 「恭兄さん! だいじょうぶ?」

  口々に体を案じる。

  恭生はそんな二人に大丈夫だからとなんとか笑って答えるが、 心の中は先程のジェフリーの様子

が気になって仕方なかった。

 「ごめん、疲れてるから少し部屋で横になるよ。」

  家の中でも何かと世話を焼こうとする二人に、 恭生は言葉少なに言うと自分の部屋に向かった。

  そんな恭生の後ろ姿をニ対の目が思案気に追う。

 「ジェフリー、 やり方間違ったみたいだね。」

 「恭兄さんを病気にするなんて、 何やったんだよあいつ。」

  ため息をつきながらつぶやく逸生の横で、 優生が憤慨やる方ないという顔をする。

 「一言言ってやらなきゃ。 あいつ、 どこ行ったんだよ。 恭兄さん一人にして。」

 「そういえば……一緒に帰ってくると思ったんだけどねえ。 電話の口調じゃあいつも結構ショック

うけてたみたいだし、 どこかで気持ち落ち着けてるのかもね。」

  ここにいないアメリカ人に二人はそれぞれ違った思いを述べた。





  恭生は部屋に入ると着替えもそこそこにベッドに横になった。

  横になると体のだるさを感じる。

  胃の痛みは治まっていたが、 違和感がなんとなく残っていた。

  それが恭生の憂鬱な気持ちを更に大きくする。

 「……あいつ、 今頃どこにいるんだろう。」

  別れ際に見た暗い表情が思い出される。

  あの時何か言えばよかったのだろうか。

  しかし恭生には何も言うことが出来なかった。

  胃炎になるほどのストレスの原因が彼じゃないと言いきれなかったから。

  自分では気付かぬうちに不安やもろもろが体の中にたまっていったのだろう。

  そしてここ数日のジェフリーの強引のアプローチが、 恭生の気持ちを更に追い詰めていったのも

事実なのだ。

 「どうしてあいつを信じてやれないんだろう、 俺。」

  あんなに好きだと言ってくれているのに。

  確かに強引だったけれど、 それでも彼の気持ちは痛いほど伝わってきていた。

  好きだという言葉を聞くたびに心の中が切なくなった。 しかしそれと共に不安も大きくなっていた。

  彼への気持ちが大きくなればなるほど、 心は怖気づいていった。

 「俺ってこんな臆病だったかよ。 情けねえ……こんな胃まで壊すなんて。 あいつ信じてやれなくて、

あんな傷つけて。」

  どうしたらいいのだろう。

  彼を傷つけるつもりなんてなかった。

  あんな暗い目をしたジェフリーなど見たくなかった。

 「どうしたらいい……?」

  恭生は暗くなっていく部屋の中で一人ベッドにうずくまっていた。