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恭生は自分の額や頬に軽く触れていくジェフリーの唇の感触を、
ぼんやりとしたまま感じていた。 そのまままた深く口付けられると、 無意識のうちに両手が彼の背中に回っていた。 ジェフリーが口付け ながら小さく笑うのがわかる。 しかし、 キスに意識が集中している恭生には自分のしぐさに気付く余裕が ない。 いつのまにか扉の前から移動して奥のマットの上に座りこんでいたが、 どうやって移動したのか、 それ すら記憶になかった。 マットの上に座りこんだ恭生に覆いかぶさるように、 ジェフリーがさらにキスを仕掛けてくる。 しっかりと 身体を抱きしめていた両腕はその拘束を解いていたが、 恭生の身体のラインを確かめるようにせわしなく 肩や背中、 腰をさまよっていた。 恭生にはもう何がどうなっているのかわからず、 ただ目の前のシャツにしがみついているだけだった。 すでに思考力は失せ、 ひたすらジェフリーの唇や自分の身体をさまよう熱い手の感触を追う。 彼の唇が唇から離れ、 首筋にそっと落とされる。 その瞬間、 恭生の背中に電気のようなものが走った。 思わずしがみついていたシャツに爪をたてて いた。 「恭生……」 首筋からジェフリーのくぐもった声が聞こえた。 その声に答えるように、 爪を立てていた背中に再度しがみつく。 「恭生、 愛してる……」 首元に熱い息を吐きながらジェフリーはそうつぶやくと、 恭生の腰に腕を回し自分の身体に強く押し付 けた。 と、 突然その身体が強張った。 「ちくしょうっ 間の悪い……っ」 恭生を抱きしめたまま小さく罵ると、 ジェフリーは大きく息を吐いて思いきったように身体を離した。 何が起こったのかわからず呆然とする恭生の耳に、 扉の外からこちらに近づいてくる足音が聞こえた。 足音が扉の前で止まると、 ガチャガチャと鍵を開ける音がした。 その音にはっと我に返る。 なんてことをしていたんだろう。 恭生はさっきまでの自分の姿を思い返して青ざめた。 ジェフリーに好きだと言ってしまうなんて……っ それどころか彼のキスを陶然と受けていた。 あのまま邪魔が入らなかったら……。 恭生は思わず口に震える手をやった。 「恭生?」 ジェフリーがそんな恭生の様子に訝しそうに声をかけた。 「どうした? 気分でも……」 「さわんなっ」 思わず自分の頬にあてられた手を振り払う。 その様子にジェフリーが眉を顰めた。 何かを言おうとしたが、 その時倉庫の扉が開き、 知哉と山脇がひょいっと顔を出した。 「やっほー、 話し合いの時間終了だぜ。」 「どうだ? 仲直りできたか、 お二人さん。」 にやにやとした顔で中の二人を見比べる。 「……あれ、 なんか空気変?」 「もしかしてまずいとこに来た?」 中の様子が変だと感じ、 二人は心持ち小さな声で恐る恐る尋ねる。 恭生はお節介な悪友達をじろりと睨むと、 無言で倉庫の外に出た。 ジェフリーがその後に続く。 「えっと……」 知哉と山脇はどうしようと顔を見あわした。 「今声かけるとなんかやばい気がする。」 「恭生、 もしかして怒っているみたい?」 「……避難した方がいいかも。」 ひそひそと小声で相談する二人を置いて、 恭生は合宿所の方へと足を急がせる。 早くこの場から立ち去って一人になりたい、 この混乱した頭では何も考えられない。 一人で落ち着いて ゆっくりと考えたかった。 今は誰とも顔を合わせたくない、 特に…… 「恭生っ」 逃げるように早足で立ち去ろうとする恭生の肩を、 後からついて来たジェフリーががっしと掴んで自分の 方を振り向かせた。 「どうしたんだ、 そんなに急いで。 それにどうして俺の顔を見ない?」 気遣わしそうに顔を近づけて尋ねるジェフリーに、 恭生は先程のキスを思い出した。 途端、 その唇の 感触までがまざまざと蘇り、 側に彼がいることに息苦しさを覚える。 「恭生?」 黙っている恭生に、 ジェフリーが再度問いかける。 「………から。」 「え?」 「さっきの言葉嘘だから。」 恭生の言葉にジェフリーがみるみる厳しい顔つきになる。 「……どういうことだ。」 身体を強張らせるジェフリーから目をそらしたまま、 恭生は早くこの場から立ち去りたいのだと言わん ばかりにそわそわしながら早口で一気に言い切った。 「さっき好きだって言ったの嘘だから。 あの時はなんかそういう雰囲気につられて……だから俺がお前 のこと好きだって言ったの忘れてくれ。」 「……嘘?」 「そう、 ……嘘なんだ。」 そう言うと恭生は視線を足元に落とした。 自分の言葉に彼がどういう反応を示すか、 彼の顔を見るのが怖かった。 ジェフリーは黙ったままその場に身じろぎもせず立っていた。 長い時間が過ぎ、 その沈黙に耐えられなくなった恭生がそっと顔を上げる。 ジェフリーは厳しい表情のまま、 じっとこちらを見ていた。 その眼差しの強さに居たたまれなくなる。 思わず立ち去ろうとする恭生に、 ジェフリーが静かに口を開く。 その口調の異様な静かさに反対に恐ろしいものを感じて身体が硬直してしまう。 「……恭生、 俺はそんな言葉では騙されないよ。」 さっと青ざめる恭生を見つめるジェフリーは厳しい表情を崩さない。 「さっきの君は確かに俺に応えてくれていた。 あの君の姿がその場限りのものだったとは信じられない。 君がそんなことできるはずないと知っているからね。 ……どうして君がそんな嘘をつくのかわからないが 俺は諦めないよ。 君が俺のことを好きなことはもうわかったんだから。」 恭生を見つめるジェフリーの眼差しに熱いものが増す。 「必ず君自身の口で俺のことが好きだということを認めさせてみせる。」 |