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  何の婉曲もないストレートな問いに恭生はとっさに「好き」と応えてしまいそうになり、 あわてて彼から

目線をそらすと開きかけた口をつぐんだ。

  しかし真っ赤になっているだろうことは自分でもわかった。

  ジェフリーがじっと自分を見つめているのが感じられる。

  どう答えればいいのだろう。

  嫌い、 と言ってしまえればいいのだが、 そう言うにはあまりにも彼のことが好きになりすぎていた。

たとえ嘘でも自分には言えない。

  しかし好き、 と言うこともできない。 本心は好きと答えたくてたまらなかった。 そう言ってしまえればどんな

にいいだろうと思う。 でも、 それを理性が押しとどめていた。 彼の言葉を信じたいと思いながら、 あまりに

突然な告白に戸惑いと疑いの念を持たずにはいられない。

  ジェフリーは自分のことが一番好きだと何度も言った。 その真剣な様子には嘘は見当たらなかった。

多分、 彼が自分のことを好きだいう気持ちに偽りはないのだろう。

  しかしそれが本当に恋愛の気持ちなのかどうか。

  彼は日本に来てからほとんど恭生と一緒に毎日過ごしていた。 他の家族たちが多忙なせいもあるが。

一緒に部屋で話をして笑いあって、 一緒に出かけたりもした。 優生よりもよほど親しく過ごし、 お互いの

ことを知った。 そんな中で生まれた友情を、 ジェフリーが愛情と錯覚しているのではないだろうか。

  そんな疑問を持たずにはいられなかった。

  恭生には自分が優生よりも好かれる理由が見つからなかったから。

  3年前に踊りをやめたときに、 恭生は自分の自信となるものを失った。 踊りが全てだったから他に価値

のあるものを自分の中に見つけられなかった。 そしてそれは今も同じだった。

  それにジェフリーは踊る優生の姿い恋をしたと言っていた。

  ならば自分は?

  彼は自分のどこを好きになったというのだろう。 踊ることもできず、 他に目標を見つけることもできない。

  恭生自身でさえ自分の価値を見出せずにいるというのに。

  好かれる自信が持てない恭生には、 ジェフリーの言葉を信じることがどうしてもできなかった。

 「恭生?」

  自分の思いに入りこんでいた恭生はその声にはっと我にかえった。

  顔をあげるとジェフリーが不審気な顔でこちらを見ていた。 その顔を近さに今の自分の状況を思い出す。

 「恭生、 どうかしたのか? ぼうっとして。」

 「……何でもない。」

  答えるが、 どうしてもかたい口調になってしまう。

  その声の調子に何か感じたのだろう、 両側に置かれたジェフリーの腕に力がこもった。

 「……恭生、 返事を。 君の気持ちを聞かせてくれ。」

  返事を問われても恭生には答えることができない。

 「恭生っ」

  黙りこくっている恭生にジェフリーがじれたような声をあげた。

 「……腕をどけろよ。」

 「え?」

 「腕をどけてくれ。 動けないだろ。」

  目をそらしたまま自分の問いを無視する恭生に、 ジェフリーの中で何かがはじけた。

 「っ! 痛いっ ジェフリー……っ」

  いきなり両肩を掴まれそのまま力任せに扉に押し付けられて、 恭生が苦痛の声をあげた。

 「何を……っ」

  恭生の悲鳴は途中で口の中に消えた。

  ジェフリーが強引に唇を重ねてくる。

  とっさに逃げようとしたが体全体で扉に押し付けられ、 身動き一つ取れない。 せめてもと顔を背けようと

するが、 右手で顎を掴まれさらに深く口付けられてしまう。

  扉に身体が押し付けられてるせいで胸が圧迫され満足に息ができない恭生が、 酸素を求めて口を開く

のを待ちかねたようにするりと舌が入ってきた。

  恭生の身体がびくりとはねる。

  それを押さえるよう彼の身体を抱き込むと、 ジェフリーは自分の舌で恭生の口の中を探検するように深く

まさぐり続ける。

  だんだんと恭生の身体から力が抜けていくのが感じられた。

  長い時間がたち、 ジェフリーが唇を離したときには、 恭生はぼうっとして目線も定まらない様子だった。

 「恭生?」

  ジェフリーがかすかにかすれた声で呼ぶと恭生はゆるゆると目をあげたが、 まだはっきりとした意識

があるようではなかった。

 「……恭生、 俺のこと好き?」

  耳元で囁くように再度問いかける。

 「好き……。」

  ぼんやりとしたまま、 恭生がゆっくりと口を動かした。

  その言葉にジェフリーは嬉しそうに微笑むと、 腕の中の想い人をまたしっかりと抱きしめた。