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  恭生はからりと玄関の扉を開いて外に出た。

 「じゃあ、 行って来ます。」

 「うん、 気を付けてね。 怪我なんかしないようにね。 ちゃんとご飯食べるんだよ。 薬持った? 歯ブラ

シは? 寝巻きは?」

 「……逸生兄さん、 別に俺遠くに行くわけじゃないだろ。 たかがクラブの合宿に、 それも合宿っていっ

ても学校で寝泊まりするだけなのに、 そんな心配するなよ。」

  まるで母親のようにあれやこれやと心配する逸生に、 恭生は思わずため息をついた。

 「でも一週間もいないんだろ。 寂しいじゃないか。」

 「……兄さんがそれを言うのか。 興行だといっては1ヶ月以上家を空けるのがざらの兄さんが。」

 「それはそれ、 これはこれ。」

  兄の言葉に思わず脱力してしまう。

 「……あのさ……あいつ、 どっか行ったのか? 朝から姿見ないけど……。」

  なおもあれこれ恭生の持ち物を心配する逸生に、 恭生は言いにくそうにためらいながら尋ねた。

 「あいつ? ……ああ、 ジェフリーのこと? そういやいないね。 またどこかに出かけたのかな。 恭生

が今日から合宿だってこと知ってるはずなのにな。 ……もしかして、 寂しいの? しばらくジェフリーの

顔見れないからね。」

 「ばっ ……行って来ます!」

  恭生は顔を真っ赤にすると、 家を飛び出していった。





 「行った? 恭兄さん。」

  見送る逸生の後ろに、 いつのまにか優生が立っていた。

 「ああ、 あいつも?」

 「うん、 さっきはりきって出ていった。 でもよくやるよねえ、 いくら恭兄さんが相手してくれないからって。

協力する僕達も僕達だけどさ。」

 「あはは、 びっくりするだろうねえ、 恭生のやつ。」

 「びっくりするより怒りそうな気がするよ。 ああ見えて恭兄さん短気だから。 ジェフリー上手くやるかな。」

 「う〜ん。 どうかなあ……どちらにしろ恭生が元気になってくれればそれでいいけどね。」

 「そうだね。 結局ジェフリーのやつ恭兄さんにすっかり避けられっぱなしで、 昨日も全然話が出来なかっ

たみたいだし。 恭兄さんは恭兄さんで、 こっちが見てられないほど暗くなっちゃってるし。」

 「まあ、 この合宿に期待しよう。 ジェフリーはともかく、 恭生が少しでも元気になるようにね。」

 「そうだね。 ジェフリーの計画が上手くいかなくても、 せめて番犬くらいには役立つだろうし。」

  冗談じゃなく、 このごろ恭兄さんのファンのストーカーじみた行動が目にあまるようになってきている。

  この家の周りでも、 時々それらしき学生達がうろうろしているのを見かけることがあるのだ。

  合宿と聞いて少し心配していた優生は、 これで兄の身に何か起こることだけはないだろう、と安心した。

  なにしろジェフリーは大柄なアメリカ人だけあって、 真剣な顔をしているとそこそこ迫力あるのだ。

 「あれだけハンサムだったら他の人達への牽制にもなるしね。」

  せいぜいがんばって番犬の役目果たしてね。

  優生は本人が聞いたらおおいに憤慨したであろうことを、 楽しそうにつぶやいた。





  一方、 家を出た恭生は学校への道をてくてくと歩いていた。

  飛び出したときの勢いは歩いているうちに落ち着き、 頭が冷えるとともに気分も沈んでいった。

 ”ジェフリーのやつ、 今日は顔も見せなかった。 俺が合宿に出かけるって知っていたのに。 しばらく

会えないってわかってたのに。 昨日までは避けても避けても話しかけようとしていたくせに。 ……もし

かしてもう呆れちゃったのか? あんまり俺が冷たい態度とるから。 もともと俺のことたいして興味あっ

たわけでもないし、 あれから優生とまた仲良くなったみたいだし、 こんなそっけない奴とはもうしゃべり

たくないって思ったかも知れない。 ……でも俺だって今更あいつとどんな顔してしゃべればいいのか、

わかんないし、 あいつのこと好きだってわかってからあいつの目、 見るの怖い。 誰見てるか知ってる

から……。”

  考えれば考えるほど気分が落ち込んでいく。

  そうこうしているうちに、 いつのまにか学校へ着いてしまっていた。

  そのまま合宿所である体育館裏の建物に向かおうとして、 建物の入り口に人が立っているのに

気付いた。

 ”あれ、 もう誰か来てるのか? 俺集合時間よりだいぶ早くきたはずなのに・・・・・・”

  そう思いながら人影に近づきかけて、 足が止まった。

 「恭生!」

  恭生に気付いたその人影が、 嬉しそうに声をかける。

 「……なんでお前がこんなところにいるんだ?」

  呆然とする恭生ににこにこと手を振るのは、 つい今まで彼が思い悩んでいた当の本人、 ジェフリー

その人だった。