君が好き

 

33

 

 

 

    疲れたように眠る朔巳の顔を伊勢はじっと見つめていた。

  自分の裸の胸に寄りそう頬には涙の跡があった。

  ヘッドボードに背中を預けて朔巳の体を胸の上に抱きかかえたまま、 伊勢はタバコを

口にくわえた。

  大きく吸いこんで、 煙をふうっと吐き出す。

  空を白い煙が流れていく。

  伊勢は灰を携帯用の灰皿に落とすと、 もう一度朔巳の顔に目を落とした。

  額にかかる髪の毛をタバコを持った手とは反対の手でそっとかきあげる。

  死んだようにぐっすりと眠っている。

  眠る朔巳を見る伊勢の目は暗かった。







  抱いてくれ、 と縋る朔巳を伊勢はベッドに運び、 震える体から衣服をゆっくりと剥いで

いった。

  夢にまで見た朔巳の裸身だった。

  白い肌に触れるとき、 自分の手が震えるのを止めることが出来なかった。

  ほのかに赤い唇に唇を寄せても、 朔巳は抗おうとしなかった。

  おとなしく伊勢の口付けを受け入れる。

  次第に深くなる口付けに、 伊勢の背中に回された腕に力がこもった。

 「朔巳……」

  伊勢は受け入れられた喜びに、 天にも登る心地で朔巳の唇を貪り続けた。

  深く舌を差し入れ、 その甘い味を堪能する。

  顔中にキスの雨を降らせた。

  いくらキスしてもどこにキスしても足りなかった。

  朔巳の全てに口付けたかった。

  その体の全てを味わいたかった。

  迸る激情のまま、 首筋から肩、 腕、 胸と口付けていく。

  胸に口付けたとき、 朔巳の口から小さな悲鳴があがった。

  背中に回されていたはずの腕が伊勢の髪にうずめられている。

  伊勢の頭を抱え込むようにして縋りつく朔巳がむしょうに可愛くて、 愛しくて

執拗に愛撫を繰り返した。

  胸全体に手を這わせながら、 舌と歯で固く突き出し始めた突起を探る。

  軽く噛むように歯を当てると、 朔巳が身をよじらせながら嗚咽を漏らした。

  胸を探っていた手を徐々に下ろしていき、 腹を大きく円を書くように撫でると、

背筋がびくりと大きくしなった。

 「朔巳……朔巳……」

  熱に浮かされたように名を呼びながら、 夢中で手と口を動かす。

 「あ……あ……」

  朔巳の口からあえかな吐息がもれる。

  伊勢が朔巳の下腹に勃ち上がりかけたものに指を絡めたときは、 さすがに大きく

目を見開いて抗おうとした。

 「や……っ 英俊……!」

  手で隠そうとするが、 伊勢はそのまま分身を掴んだ手を上下にゆっくりと動かした。

  朔巳の頬が見る間に赤く染まっていく。

  固く目を閉じて、 伊勢の体にしがみついた。

  初めて味わう他人の手による快感に必死に耐える。

 「あ……は、 あ……」

  伊勢は快感に上気した顔をうっとりと見つめた。

  ずっと見たかった表情だ。

  薄く開かれた口に吸い寄せられるように唇を寄せる。

  深く口付けながら、 手の動きを早める。

  終わりは早かった。

  未成熟な体はあっというまに絶頂に押し上げられた。

  達した瞬間、 朔巳の口がある名の形に動いた。

  寸前まで口付けを交わしていた伊勢には、 それが誰の名か、 わかってしまった。

  カ、ズ、ハ、ル

  朔巳は音にならない言葉でその名をつぶやいていた。

 







  じっと朔巳を見つめたまま、 伊勢はその閉ざされた目にそっとキスを落とした。

 「……愛してるよ、 朔巳……」

  そう、 眠る朔巳には届かない言葉を囁く伊勢の目には決意の色が浮かんでいた。