君が好き

 

23

 

 

 

   「酔いつぶれた……泊まった……?」

 「俺ってお酒弱いから。」

 無邪気に笑う朔巳を思わず掴んで揺さぶりそうになる。

  あの野郎……!

  酔いつぶれた朔巳を抱きかかえてほくそえむ伊勢の姿が目に浮かぶ。

  しかも一晩中あいつと一緒だったなんて。

  嫉妬と焦燥感が多谷を襲う。

  このままではいつか伊勢に朔巳を奪われてしまう。

 「……朔巳。 今日、 どうしてもだめか?」

  多谷は焦る気持ちのまま口にしていた。

 「俺は今日はどうしてもお前と一緒にいたい。 特に用事がないなら断れよ、 伊勢の誘い。」

 「え……」

  朔巳は単刀直入に切り出した多谷の言葉に言葉を詰まらせる。

 「お前と一緒にいたいんだ。」

  真剣に言う多谷に、 朔巳の顔が真っ赤になる。

  それとは反対に朔巳の頭の中は真っ白になっていた。

  多谷の言葉だけが頭の中を回っている。

  自分と一緒にいたい。

  多谷は確かにそう言ったのだ。

  心の中から切ないような何とも言えない甘酸っぱい感情がこみ上げてくる。

  多谷がどういうつもりでそんなことを言うのか分からなかったが、 そう言ってくる彼の

表情はとても真剣で何かを訴えているようにも思えた。

 「和春……」

  名を呼ぶ唇が震える。

  多分目元が赤くなっているだろう。

  多谷を見る自分の目が熱くなっているのを感じる。

  何か言わなければ、 彼が変に思う。

  一生懸命心の中で何か言おうと考える。

  だが、 どうしても言葉が出てこず、 朔巳はただ黙って多谷を見るしかなかった。

  多谷はじっと自分を見つめる朔巳の表情に目を奪われた。

  どこか潤んだ瞳で見つめられ、 鼓動が早まる。

  目元をうっすらと赤く染め、 頬がピンク色に上気した様子は、 いつもの朔巳とは違う

雰囲気をかもし出していた。

  抱きしめたい。

  その何か言いたげに薄く開いた唇にむしゃぶりつきたい衝動に駆られる。

 「朔巳……」

  抑えきれない衝動に多谷の手が朔巳へと伸ばされる。

  と、

 「朔巳?!」

  鋭く問う声が二人の間を割って入った。

  立ち並ぶ棚の向こうから、 伊勢が厳しい表情でこちらを見ていた。







  伊勢は二人の様子を見て取ると、 厳しい表情のままつかつかと歩み寄ってきた。

  そしてその勢いのまま、 ぐいと朔巳の腕を掴んで自分へと引き寄せる。

 「っ! 英俊?」

  その乱暴な仕種に朔巳は顔をしかめた。

  掴まれた腕が痛い。

  だが伊勢は腕を放そうとはせず、 そのまま前に立つ多谷に向き合う。

  多谷は乱暴な伊勢の行動にすっと表情を固いものに変える。

  視線は突然割りこんできた伊勢に向ける。

  その目は物騒な光を放っていた。

  伊勢も自分の腕の中に朔巳を閉じこめたまま、 鋭い目で多谷を睨みつける。

 「英俊……和春……?」

  さすがに朔巳も二人の様子がおかしいことに気付き、 不安な声を出した。

  多谷の視線に慌てて伊勢の腕の中から抜け出そうとするが、 朔巳を捕らえた腕は

しっかりと彼を抱えこんで少しも力が緩まない。

 「英俊……っ 放せって。」

  何とか離れようとするが、 その腕の力はますます強くなるだけだった。