君が好き

 

17

 

 

    言葉どおり、 夜電話をかけてきた伊勢は何故か多谷のことをしきりに知りたがった。

 ”だから、 どうしてお前と多谷がそんなに急に仲良くなったんだ。”

 「仲良くって……たまたま栗原教授の研究室にいたときに多谷が……。 それからも

偶然会ったときに一緒にお昼を食べたりとか、 それぐらいだよ。」

 ”本当にそれだけか? ”

 「どうしたんだよ。 英俊、 お前なんか変だぞ。 今までそんなこと気にしたことなかった

のに。」

  朔巳はいつもとは違う伊勢の様子に首をかしげた。

  いつもの彼は朔巳の人間関係にあまり首を突っ込んでこない。

  それどころか、 友人の少ない彼にもっと社交範囲を広げろ、 お前は世界が狭いと

うるさいくらいに言ってくる。

  なのに、 何故多谷と少し仲良くなったくらいでこんなにとやかく言うのか。

 「心配しなくても多谷はいい奴だよ。 英俊だってもっと友人を増やせって言ってた

じゃないか。」

 ”でもな…… ”

  朔巳の言葉に伊勢は渋るような声を出す。

 「今日だって俺がずっと探していた本を見つけたからってわざわざ持ってきてくれたんだ。

話も合うし、 一緒にいって楽しいんだ。」

  朔巳は多谷の顔を思い出し、 笑みを浮かべながら言った。

 ”……お前さ、 今までそんなに嬉しそうに他人のこと話したことなかったよな ”

 「え?」

  黙って朔巳の話を聞いていた伊勢が、 低い声で話し出した。

 ”いつもそうだった。 俺と一緒にいてもどこかうわの空であんまり自分から話して

こなかっただろう。 だから驚いてんだよ。 昼間のお前、 あいつと一緒にいてすごく

楽しそうだったから ”

 「それは……」

 ”同じ趣味で話が合うってのは分かるよ。 でも今までとあんまりお前の雰囲気が

違うから俺も気になって…… ”

 「ふ、 雰囲気?」

  思わず聞き返す。

 ”ああ。 初めて見た、 お前がちゃんと相手に意識を向けて話しているの。 朔巳、

お前自分では気付いてないだろう。 俺が見たときお前、 すごく熱のこもった目で

多谷のこと見ていたぞ ”

  言葉が出てこない。

  そんなに自分は多谷のことをじっと見詰めていたのか?

  他人に分かるほど?

  朔巳は頭が真っ白になって何も言えなかった。

 ”朔巳? ”

  受話器の向こうの沈黙に伊勢が不審の声を出す。

 「……俺、 そんなに露骨に多谷のこと見てた?」

  震えそうな声で問う。

  多谷に気付かれてしまうのだろうか。

  自分の気持ちが。

 ”……露骨っていっても俺は普段のお前知ってるから。 他の奴らには分からない

だろうけどさ ”

  その言葉に思わずほっと息を吐いた。

 「は、 話がはずんでいたからだよ。 多谷っていろいろ俺の知りたいこと知ってるから。」

 ”そうか……? ”

 「それよりも明日って言ってたよな、 コンパ。」 

  まだ納得できないのか、 伊勢がなおも話を続けようとするのを朔巳は半ば強引に

そらす。

 ”あ、 ああ……お前来れるか? ”

  伊勢もそんな朔巳の様子に諦めたようだった。

 「いいけど……俺、 やっぱリそういうの好きじゃないし……」

  電話の用件は明日の飲み会のことだった。

  久しぶりに出てこないかと誘われたのだ。

 ”大丈夫だって。 そんなに大勢来るわけじゃないし、 なんなら一次会だけでもいい ”

 「うん……」

 ”来るよな? 他の奴らもこの頃お前顔見せないから心配してるんだぞ ”

 「他のって、 皆英俊の友達だろ。 俺とは……」

 ”皆お前のこと気に入ってんだよ。 少しは顔見せてやれよ ”

 「う……ん」

 ”じゃあ、 明日5時に迎えに行くから ”

 「迎えっていいよ。 場所さえ教えてくれれば……」

 ”だめだ。 ちょっとガラの悪い場所なんだよ。 どうせ明日4限まであるんだろう。

終わったころ見計らって教室まで行くから ”

  そう言うと伊勢はさっさと電話を切ってしまった。

 「ガラが悪いって……俺、 女の子じゃないのに……」

  あいかわらずそういうところは過保護な友人に、 朔巳は苦笑しながら受話器を置いた。