君が好き

 

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   「高校生らしいんだけど、 歴史に興味あるみたいで毎日のようにメールで

俺のサイトの感想や質問くれるんだよ。 でも、 この頃のメールの内容読んで

るとさ、 どうもそいつの興味あるの中世あたりらしくて……俺の専門って縄文

だろう、 どうも勝手が違ってさ。」

 「勝手が違う……?」

  朔巳は震えそうになる声を必死に抑えながら、 何気ない風によそおった。

 「ああ、 違うっていうか……そいつ歴史そんなに詳しくないって最初言って

たんだけど、 時々びっくりするほど踏みこんだ質問してくるから、 俺の方が

返事返す前に調べなきゃならない時があってさ。」

  多谷の言葉に、 朔巳は心の中で冷や汗をかいた。

  そんなに専門的なことを書いた覚えはなかった。

  いや、 自分の好きなことを書くうちに無意識に知識を晒け出してしまって

いたのかもしれない。

  テーブルの下の手が震えてくるのを抑えられない。

 「へ、 へえ……その子よっぽど勉強してるんだね……歴史…」

 「そうだな、 今時珍しいくらい真面目だぜ。 ……実は俺、 そいつと一度

会う約束してたんだけどさ、 なんか約束の日の前に事故にあったらしくって

今療養中なんだとよ。」

  会うの、 ちょっと楽しみだったんだけどな。

  その言葉に朔巳は震える手を膝の上で固く握り締めた。

  では、 多谷も弘海のことを気に入っていたのだ。

  いや、 今も弘海と信じて自分とメールを続けている。

  いつもの罪の意識が襲ってくる。

  わんわんと耳鳴りがする。

  多谷の言葉が遠くに聞こえた。

  朔巳は気が遠くなりそうな自分を必死で保っていた。

 「……河野? どうかしたか?」

  さすがに多谷も朔巳の様子がおかしいことに気付き、 心配そうに身を

のりだしてきた。

  伸ばされた手で額の前髪をかきあげられて、 はっと我に返った。

 「な、んでも…ない。 ……さっきのカツがどうも……」

  ぎこちないものではあったが、 なんとか笑みを浮かべた。

  今、 多谷にメールのことを知られたくない。

  朔巳はそれだけを思った。

  目の前にあったコップの水を一口すする。

 「ホント、 大丈夫だから。」

  心配しないでくれ、 ともう一度笑みを浮かべる。

  水を飲んで少し落ち着いたのか、 今度はさっきより自然に笑うことができた。

 「そうか? 油が合わなかったか?」

  まだ心配そうに朔巳を見ながらも、 多谷はなんとか納得したようだった。

  もう一口、 二口水をすするとだいぶ気分も落ち着いた。

 「……で、 なんだっけ。 悪い、 話中断させて。」

  胸の奥にずきずきと残るうずきを押し隠しながら、 朔巳はあえてさっきの

話の続きをうながした。

  多谷が何を言いたかったのか、 気になる。

 「ああ……その、 メールのことなんだけど。」

  多谷は朔巳の身を気遣うように見ると、 話を続けた。

 「だから、 俺も専門以外は疎いとこがあってさ。 お前、 ちょっとアドバイス

してくれないか。」

 「俺……が?」

  思いも寄らないことに、 朔巳は大きく目を見開いた。

 「いつもとは言わない。 俺がメールに答えられないときにちょっと教えてくれる

だけで。」

 「でも……」

  冗談ではなかった。

  自分が送ったメールの質問に自分が答えるということになるのか。

  そんなことできない。

  これ以上もう偽りの形を複雑にしたくなかった。

 それなのに……

 「頼む。 俺、 あんな熱心にメールくれる奴には真面目に答えたいんだ。」

  手を合わせるようにして言う多谷の言葉に、 朔巳はどうしてもNOと言う

ことができなかった。