君が好き
13
「あ、 そうだ。 河野、
お前来年栗原教授のゼミ取るって言ってたよな。」 学食で日替わり定食のから揚げをほおばりながら、 多谷がふと思い出した ように言った。 「あ、 ああ……教授、 専門中世だから……」 「そっか、 お前鎌倉あたり勉強したいって言ってたもんな。」 「……よく覚えてたな。」 以前に多谷が栗原教授から借りた本のことで話していたときに、 少し話した だけだったはずだ。 それだけのことを覚えていた多谷に、 朔巳は軽く目を見張った。 「そりゃあ、 お前あの時すっげ目輝かせてしゃべってたからさ。 なんとなく 印象に残ってて。 あんなに楽しそうにしゃべるお前見たのってあの一回っきり だし。」 いっつもまじめな顔してしゃべってるからさ。 そう言って多谷は朔巳の眉間を、 たくあんをはさんだ箸を持ったままの手で 差した。 思わず朔巳が身を引くのを見て笑いながら、 口の中にぽいっと漬物を ほおり込む。 多谷は旺盛な食欲で目の前の食べ物を片付けていく。 朔巳はみるみる減っていくトレイの上を感心したように見ていた。 「……あいかわらず早いな、 食べるの。」 知らぬ間に口からポロリと言葉がこぼれる。 ん? と多谷はその言葉に顔をあげた。 朔巳のトレイと自分のトレイを見比べてにやりとする。 「お前こそ、 あいかわらず食うの遅いな。 ……それ、 食わないならくれ。」 「え?」 朔巳が答える前に、 多谷は皿の上の食べかけのカツをひょいと取り上げると そのまま自分の口にほおり込んだ。 「! それっ 俺の食べかけ…っ」 一瞬の出来事に止める間もなかった。 朔巳は多谷の口の中に消えていったカツを呆然と見ていた。 「だってお前もう食べたくないって顔してたぜ。 残すよりいいだろ。」 多谷はそんな朔巳の様子にも平然と答えた。 「だからって何も食べかけのものまで……」 「そんな細かいこと気にすんなよ。 別に味変わるわけないし。」 トレイの上のものを、 朔巳のトレイの上まで、 全て平らげて、 多谷は満足 そうに茶をすすりながら言った。 何事もなかったかのような多谷の態度に、 朔巳はもうそれ以上何も言うことが できなかった。 ただ、 自分の食べかけのものを口にした多谷の口元が、 いつまでも目に 焼き付いていた。
お茶を飲んで一息ついた多谷が先程の話を持ち出した。 「詳しいっていっても、 そこらの専門書ちょっと読んだくらいだけど……」 「いいっていいって。 そんなに専門的なこと聞くわけじゃないから。 実はさ、 俺、 ホームページ作ってんだけど、 今えらく熱心にメールくれてる奴がいてさ。」 メールという言葉に朔巳はびくっとして顔をあげた。 多谷はそんな朔巳の様子に気付かないのか話を続けた。
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