君が好き

 

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  友達。

  朔巳は家路につきながら信じられない気持ちで一杯になりながら

多谷の言葉を反芻していた。

  ふわふわと体が浮いているようで、 周りのこと全てが現実感がない。

  こんなことが起こるなんて思ってもみなかった。

  確かに自分に向けられていた笑顔に胸が締めつけられそうになった。

  ぎこちなく笑みを返すしかなかった自分を、 多谷は変に思わなかっただろうか。

  自分はおかしなことをしなかっただろうか。

  言わなかっただろうか。

  今更恥ずかしくなる。

  それと同時に今日、 教授の研究室に一人でいた幸運に感謝したくなった。

  朔巳は幸せな気持ちで家に帰った。







  その幸せな気持ちは、 自分の部屋に入った瞬間、 消えた。

  机の上のパソコンが自分の罪を思い出させた。

  そして、 もう自分のしたことが取り返しのつかないところに来てしまったことに

気付いた。

  多谷は自分という人間の存在を知ってしまった。

  もう、 知らない人間として過ちを告げることが出来ない。

  まったく知らない関係だったときなら全部打ち明けることも出来たかもしれない。

  弘海の死を告げ、 彼の墓前を弔ってくれと頼めたかもしれない。

  でも朔巳は自分に向けられた多谷の笑顔を知ってしまった。

  今自分のしたことを告げれば、 多谷はもう二度とあの笑顔を見せてくれない

だろう。

  それどころか、 弟の死を弄んだと蔑むかもしれない。

  嫌だ。

  それだけは嫌だった。

  多谷とやっと話ができるようになったのに……!

  朔巳は自分に向けられるかも知れない多谷の軽蔑の眼差しを想像しただけ

で心臓が凍りそうになった。

  メールアドレスを消してしまおうか。

  一瞬そう考えた。

  突然メールが繋がらなくなれば、 多谷も怒ってそして忘れるかもしれない。

  しかしそれでは弘海という人間は多谷の中で悪い記憶としてしか残らなくなる。

  死んでしまった弘海に罪はない。

  こんなことになったのは自分のせいなのだから。

  「どうしたら……」

  朔巳はパソコンを見つめたまま、 ただ呆然とつぶやくだけだった。