「大人なんだから自分で何とかするだろう」
そう思い、そのまま男性の隣を通り過ぎた。
しばらく歩いていると
なにやら背後が騒がしくなった。
振り返ると、先ほどの男性と別の男性が言い争っていた。
「信濃さんっ 原稿早くくださいよ〜っ!」
「元旦から辛気臭いこと言うなよ」
「信濃さんが年末までにあげてくれないからじゃないですかっ!
今日こそ絶対にいただきますからね。
さあ早くください。すぐにください。どうしてもください。無理でもください〜っ!」
「無理。俺今から甲斐と初詣に行くんだから」
「初詣っっ??? だめですっ! 絶対だめっ!
原稿をいただくまではどこへも行かせませんよっ!!」
「うわっ こらっ! 離せっ! 腕にしがみつくなっっ!!」」
「離しませんっ さあ部屋に戻りましょう。
甲斐君も事情はわかってくれます。
早く書けばそれだけ早く甲斐君に会えますから。
だから早く書いてください。原稿あげてください」
「離せ〜っ 俺は甲斐と……っ」
「信濃さん、信濃さんも大人ならわかるでしょう。
締め切りは大事なんです。破ってはいけないんです。
僕や読者さんのためにも、ほら、頑張ってくださいっ」
「子供でいい。大人じゃなくていい。俺子供だからっ!
だから離せっ!!!」
「わけわかんないこと言ってないで、さっさと部屋に戻りましょうっ」
「離せ〜〜〜〜〜っ!!!!!」
暴れる男性をしっかりと捕まえて
先ほどの男性は目の前のマンションへと消えていった。
しかし、姿が見えなくなった後も、
彼らの言い争う声は聞こえている。
「………元旦から大変」
一部始終を見た後、ボソリと呟くと、
再び城に向かって歩き出した。
しばらく歩くと、どこからかサイレンの音が聞こえてきた。
どうやら救急車のようだ。
さて、どうしましょう。
気になるのでそちらの方へ行ってみる | 急ぐので放っておく |