Spicy Bombe









 どんっとテーブルに置かれた皿に、雄彦は嫌な顔をした。

「……おい、これは何だ」

 心底嫌な表情をして皿を指差す。

「見りゃわかるだろ。 ピーマンの肉詰め、ナスの煮浸し、きんぴらごぼう、豆腐とわかめの

味噌汁にはたーっぷりとネギをサービスしたぞ」

「………」

「外で食えるなら家でも食えるだろう。ほら、さっさと食え」

 ほらほらと促す淳平に、雄彦はじろりと不機嫌そうな目を向ける。

 そしてもう一度テーブルの上に視線を戻すと、ため息を一つつき、箸を手にとった。

 おっ、と淳平が今度こそ食べるかと期待する。

 ………が、

「!!!!!」

 雄彦は箸でピーマンをぺろりとめくると中の挽肉だけを口に運び始めた。

 ナスときんぴらの方へは一瞥をくれただけ、箸を向けようともしない。

 味噌汁は器用に豆腐のみを掬って食べている。

「おい! 何だよ、その食い方は!」

「何って、いつもと同じだろう」

 平然と箸を動かし続ける男に淳平は真っ赤になって怒りをあらわにした。

「っざっけんなよ! てめえっ!」

 ダンッとテーブルを打ち叩く。

「食えるなら食え! いつまでもガキみたいな好き嫌いをしてんじゃねえっ!!」

「だから言ってるだろう。どうして嫌いなものを食べなければならない?ここは俺の

家の中だ。俺の好きなようにする」

「てめえには作ったものへの感謝の気持ちってもんがないのかっ!」

「わざわざ嫌いなものを作る相手にどうして感謝なんか?俺はちゃんと嫌いなものは

絶対食べないと言ってるんだぞ。それを作る方が悪い」

「食べ物を粗末にするなって言ってるんだ!」

「なら俺が食べられる食材を使え。俺が食べないとわかっていてその食材を買ってくる

お前の方がよっぽど食べ物を粗末にしているんじゃないか?」

「何だと〜っ!」

 あまりな言葉に淳平の頭が沸騰する。

「屁理屈ばっか言ってんじゃねえっ!食えったら食えっ!」

「だから嫌だと言っているだろう。わからない奴だな」

 どうしようもないな、と、雄彦が呆れたように首を振る。

 どうしようもないのはお前の方だと喚きたてたいが、あまりに激昂していて言葉が

すぐに出てこない。ただ口をぱくぱくとさせるだけだ。

 それを見て、また雄彦が油に火を注ぐ言葉を吐く。

「なんだ、図星を指されて返す言葉もなくなったか? 間抜けな金魚みたいだぞ」

 にやりと笑う顔が憎たらしい。

 とうとう淳平の頭がどかんと噴火する。

「誰が間抜けだっ! てめえの言い草があんまり自分勝手だから呆れてたんだよ!」

「自分勝手とは言いがかりだな。俺はただ自分の家の中ぐらい、自分の好きなように

してどこが悪いと言いたいだけだぞ」

 雄彦は完全に箸を放り出し、腕を組んで食事を放棄する姿勢で踏ん反り返っていた。

 その姿勢にまた淳平は怒りを深くする。

「それでもだ! 限度ってもんがあるだろうが! 少しは妥協の姿勢を見せろ!

こっちはあんたにまともな食事をさせようと努力してんだぞ!」

「だから俺が食べられるものを作れと、そう言ってるじゃないか」

「だーかーらっ! ああっ! もうっ!」

 どう言ったらいいのかわからない。 ああ言えばこう言う。 自分勝手な論理ばかり

振りかざされてどうしようもない。

 まるで言葉の通じない宇宙人と話している気分になる。

 淳平は頭をがしがしと掻き毟って、はけ口のない怒りを少しでも発散させようとした。

「好き嫌いが多すぎるんだよ!あんたの好きなものだけじゃあほとんどの料理が

成り立たねえ」

「自信ないのか?」

「なっ!」

「俺に食べられるものを作れる自信がないんだろう」

「!!!」

「だから俺は言ってるだろう。いつでもやめていいぞって」

「冗談じゃねえ!!」

 自信がないのかと言われ、淳平のプライドが憤然と抗議の意を表す。

「馬鹿にすんな! 俺が自信ないわけないだろう! この俺がっ!」

「じゃあ作れるんだな?」

「当たり前だ!」

 そう胸を張って断言して、はたと思う。

 ………あれ? 俺は今何を言ったんだ?

 相手の口車に乗ってしまったことに気づく。

 気づいた時には遅かった。

 目の前にはしたり顔した男の笑みがある。

「〜〜〜っ!」

 真っ赤になって怒りに体を震わす淳平に、雄彦が最後の止めをさす。

「楽しみにしてるぞ」

 

もう、淳平は何も言うことができなかった。