Spicy Bombe

 

 

 

 

    今日はこれをメインにして、 それから付け合せに………いや、 これはわからないように

すりつぶした方がいいか? それとも………

  大体の献立が決まってくる。

  あとはどうやって男にわからないように食べさせるかだ。

  淳平が頭をひねっていると、 のほほんとした声が聞こえた。

 「こんにちは〜 先輩」

 「来たか………」

  顔を上げると、 貢の相手の少年がにこにこと部屋に入ってくるところだった。

  いつもながら極楽泰平な顔をしてやがる……

  むしゃくしゃとした気分のままそう思う。

 「あれ、 淳平先輩もまだいたんだ」

  淳平に気付いた健太が首をかしげて声をかけてきた。

 「悪いかよ」

  むっとして睨む。

  そんな淳平の様子に健太はびくんとすると貢の側に駆け寄った。

  健太は初めて淳平に会った時に彼に怒鳴りつけられたという最初の印象が悪かったのか、

未だに顔を合わせれば少しおじけづいた様子を見せる。

  それがまた淳平のからかいのもとになるとも知らずに。

  淳平自身は健太をそれほど嫌ってはいない。

  ガキだなとは思うが、 小動物だと思えば貢の作ったお菓子を嬉しそうにほおばる様子も

納得できる。

  ただ、 自分の目の前で貢とじゃれ付くのはやめてくれと思うが……

  今も貢は自分に寄り添ってきた健太を可愛くて仕方がないといった目で見ながら、 よしよしと

少年の頭を撫でている。

 「健太君、今日は早かったんだね。 ちょうど良かった。 チーズケーキが焼けたところだよ」

 「本当?! わーいっ!」

  途端に笑顔になる健太にますます貢は相好を崩している。

 「健太君は本当にケーキが好きだね」

 「だって、 貢先輩の作ったお菓子、 とっても美味しいから」

 「美味しいのはお菓子だけ?」

  そう言って健太の唇を指で撫でる。

 「……え?」

  一瞬きょとんとした健太は次の瞬間真っ赤になった。

 「ここでじゃれるのはやめろと言ったろうが……っ」

  そんな二人の様子を見ていた淳平がうんざりとした顔で手に持っていた本を放り出す。

  いつもこんな調子なのだ。

  このままでいくと自分がいる事も忘れて、 二人は何を始めるかわかったもんじゃない。

  淳平はそう一人ごちると、 立ちあがってたった今放り出した本を鞄に入れた。

  そして出口へと向かう。

 「帰るのか?」 

  貢が声をかけてくる。

 「違う。 今からまた勝負しにいくんだ」

  顔だけ振り向いてそう答えた。

  そう、 もうこれは勝負なのだ。

  今度こそ……!

  もう何度つぶやいたか知れない言葉をまた口にする。

  見てろよ。

  部屋で待っているはずの男の顔を思い出す。

  闘志に燃えながら、 淳平は部屋を出ていった。

 「………淳平先輩、 すごくやる気だね」

  その後ろ姿を見送った健太がぽつりとつぶやく。

 「あいつも負けず嫌いだからね」

  貢が苦笑しながら答える。

 「ふ〜ん………」

  なんだかわかる気がする。

  そう考えていた健太は、 しかし貢の次の言葉に全てのことを忘れ去った。

 「健太君、 チーズケーキどれだけ食べる?」

 「全部!」

  そしてその後は二人だけの甘い時間となった。