Spicy Bombe

 

 

 

 

   「熱心だな」

  貢は料理の本にかじりついている淳平を感心したように見た。

  しかし淳平はじろりと横目で睨んだだけで答えようとはしない。

  ひたすら本に目を向けるだけだった。

 「まだ例の所に行っているのか?」

  そんな彼を気にする様子もなく、 貢は持ってきた材料を台に並べ出した。

  卵、 砂糖、 クリームチーズ、 粉……と並んでいくところを見ると、 今日はどうやらチーズケーキ

でも作るらしい。

  大方、 またあのチビにでも食べさせるつもりだろう。

  こころなしか楽しそうに用意を始める親友に胡乱な目を向けた。

  何を考えているんだか………

  2月のバレンタイン騒動の後、 1学年下のその少年と付き合いだしたのだと貢から聞いた時は

心底驚いた。

  何の冗談だと思ったものだ。

  到底続くまい、 すぐに飽きるだろうと思ったその関係は、 しかし半年経った今もまだ続いている。

  毎日毎日楽しそうに、 放課後部活を終えた少年が来るのを、 お菓子を作って待っている貢の

姿にほとほと呆れかえる。

  そして、 まるで飼い主のところに戻ってくる子犬のように嬉しそうに、 ここにやって来る少年と

砂を吐きそうなほど甘い空間を作る様子には、 傍らで見ている自分の方が恥ずかしくなる。

  また今日も同じような光景を見なければならないのか……

  淳平はぱらりと本をめくりながら、 材料を計り出す親友の姿にため息をついた。

  そのため息を聞きとがめた貢が手を止めて淳平を見る。

 「どうした? 何か問題でも?」

 「………なんでもねえ」

  憮然として答えてしまうのは仕方がない。

  そうだ。

  親友のことを呆れている場合ではないのだ。

  今日もまたあそこに行かなければならない。

  そして今日こそは………

  自分をからかうような目で見る男の姿を思い出す。

  おもわず料理の本を握り締める手に力がこもった。

 「淳平、 本がしわくちゃだぞ」

  ちらりと手元を見た貢が言う。

 「そんなに嫌なら断ればいいじゃないか。 非は明らかに向こうにあるんだろう?」

 「そりゃ………」

  確かに悪いのは向こうだ。

  せっかく作ったものを食べない、 食べても作ったものへの感謝もかけらもないそのひどい残骸。

  いくら頼まれたからと言っても限度がある。

  しかし………

 「このままじゃあ俺の気が済まねえんだよ」

  あんな、 ひどい偏食の持ち主は今まで会ったこともない。

  いつも今度こそはと思いながら作った料理をことごとく無惨な姿に変えてくれる。

  そしてそれをすまなく思うどころか、 傲慢なほどにけなしまくる。

  まるで悪いのは淳平だと言わんばかりに。

  思い出すだけで腹が立つ。

 「見てろよ………今度こそ…」

  また本にかじりついた。

  きっとあいつに美味しいと言わせて見せる。

  悔しさとあの男への怒りが淳平を駆り立てる。

  そんな淳平の姿を貢が苦笑しながら見ていた。