Spicy Bombe

 

 

 

 

   「懲りないな、 お前」

  雄彦は感心したような顔で淳平を玄関に迎えた。

  土曜日、 半日で学校が終わった淳平はその足でスーパーに行くと食材を買い込み

雄彦のマンションに押し掛けたのだ。

 「うるせえ、 さっさと中に入れろ」

  憮然とした表情で自分を見下ろす男を睨む。

  雄彦ははいはい、 と肩をすくめると体をずらして淳平を中に通す。

  その余裕な態度にまたかちんとくる。

  くっそお……今日こそは……っ

  早速キッチンに向かい、 食材を台に下ろす。

 「……ちなみに今日の献立は?」

  後ろから面白そうな声音で雄彦が話しかける。

  じろりと見ると、 リビングの入り口でにやにやとこちらを見ている。

 「出来たら呼ぶ。 あっち行ってろ」

  ぎらりと包丁を持った手で追い払う。

  雄彦はそれに逆らうことなく笑いながら部屋へと消えていった。

 「さあて、 始めるぞっ」

  淳平は腕まくりすると、 目の前の食材に挑みかかった。











  雄彦はスプーンにすくったスープを口に運び、 ひょいと眉をあげた。

  そのまま何も言わずにもう一匙口に運ぶ。

  そしてもう一口。

 「美味いだろう、 そのスープ」

  その様子に淳平が得意そうに言う。

  雄彦はその言葉にも無言でスープをじっと見つめた。

  ただのコーンスープに見える。

  が、 淳平があんなに得意げにする理由が何かあるはずだった。

 「………何を入れた?」

  淳平の笑みが大きくなる。

 「あんたの嫌いな人参、 玉ねぎ、 セロリ、 それからジャガイモを形が崩れるまで煮こんで

裏ごしした。 そこにクリーム状にしたコーンをたっぷり、 粒コーンもたっぷり。 あとは生クリーム、

牛乳を入れて調味料で味付けした」

  人参、 玉ねぎ、 セロリ、 牛乳という言葉に雄彦は嫌な顔をした。

  「美味かっただろう」

  そんな雄彦に淳平が得意そうに言う。

  雄彦はちらりと淳平を見ると、 無言のまま隣のチャーハンに手をつけた。

  が、 こちらは一目見て眉をひそめる。

 「おい、 玉ねぎとピーマンが入っている」

 「そこまで細かくすると大丈夫だろう。 小さすぎて味もくそもないぞ」

  みじん切りにした野菜を雄彦はじっと睨みつける。

  と、 おもむろにスプーンの先でぺっぺっぺっと野菜をはじき出し始めた。

  お茶を淹れにキッチンに向かっていた淳平は振りかえって唖然とする。

  チャーハンの皿の端には綺麗にはじき出された玉ねぎとピーマンが山を作っていた。

  目に見える限りの野菜をはじき出し、 卵とチャーシューだけのチャーハンを雄彦は

悠然と口にしていた。

  それを見て淳平の顔が真っ赤になる。

  とっさに言葉が出ない。

  ぱくぱくと何度も口を動かしてやっと声になる。

 「……おっ……おっ……お前……っ お前は子供かよっ!!」

  爆発した淳平を見て雄彦はにやりと笑った。

 「まだまだ甘いな。 こんな目につくものを俺が食べるわけないだろう」

  野菜以外綺麗になくなった皿を押しやり、 淳平が無意識に置いたお茶に手を伸ばす。

  美味しそうにお茶をすする雄彦を淳平は悔しそうに睨みつけるだけだった。

  しばらくその場に立ち尽くしていた淳平だが、 やがてがっくりと肩を落とすと

くるりと振り向いて汚れ物を洗い出した。

  その後ろ姿を雄彦が楽しそうに眺めていた。