Spicy Bombe




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 杵築が嫌いなもの。トマトにキュウリに玉ねぎにしいたけにほうれん草に豚肉に蛸に青魚に

牛乳に…………は数えればきりがない。

 そして好きなものはハンバーグにスパゲティ、カレー、エビフライ、シチュー、オムライス、

グラタン………いわゆるお子様が喜ぶもの全般だ。

「あいつが何と言おうと、絶対お子様味覚だ」

 淳平はぶつぶつと呟きながら、ダンと包丁で皮むきした人参を真っ二つにした。

「ガキガキガキガキ、くそガキ………っ」

 ダンダンッとさらに包丁を振り下ろす。

 そして、輪切りにしたそれを手に取ると、今度は丁寧に面どりをしていく。

 ついでに、

「ガキにはこれがお似合いだ」

 にやりと笑った淳平の手のひらには、綺麗な花型にされた人参が乗っていた。

 その次はジャガイモ。

 これも皮を剥くと、器用に包丁を動かし、星型に切っていく。

 別に下ごしらえした鶏肉と玉ねぎと一緒にブイヨンで煮込み、 小麦粉とバターと牛乳で

作ったホワイトソースを加えると、シチューの出来上がりだ。

 キッチンにいい香りが漂う。

「完璧完璧♪」

 サラダは杵築のお気に入りのポテトサラダ。ふわふわのオムレツも作った。

 シチューにあわせて、温めたロールパンもナプキンをしいた籠に盛っている。

 そして忘れてはならないのが、

「今日はシュークリームだ」

 そう。 杵築はデザートが大好きだったのだ。

「やっぱりお子様じゃないか」

 全てテーブルに並べ終え、杵築のいる書斎に向かう。

「おい、めし」

 どんどん、と扉を叩いて食事の支度が出来たことを伝える。

 すぐに扉が開き、杵築が顔を出した。

「今日は………この匂いはシチューか?」

「ああ、俺の特製のホワイトシチューだ。心して食えよ」

 お子様仕様に可愛くかたどった野菜達を思い浮かべ、淳平はにやにやと笑った。

 杵築はそんな淳平をちらりと見ると、口元に薄笑いを浮かべた。

「今度は何を企んでいる?」

「べ〜つに」

 そっぽ向いてそう嘯く。

 昨日はハンバーグを動物の形にした。

 ブタの形をしたハンバーグを目にして、杵築は一瞬目を見開くと、にやにや笑う淳平に

向かって言った。

「ブタの尻尾はこんなに長くないぞ。それに耳もこんなに丸くない。もう少しちゃんと

研究するんだな。これじゃあ子供が間違った知識を持ってしまうぞ」

 その前の日はロールサンドを一つづつセロハンに包み、キャンディのように両端にリボンを

つけた。

 それを見た杵築は、

「お前、少女趣味だな」

 そう淳平を笑った。

 その前は、ケチャップでアンパンマンの顔が描かれたオムライスを見て、

「ヒマな奴だな」

 ことごとく外される。

 杵築の困った顔が見たいのに、一向に堪えた様子はない。

 そして今日も、席についた杵築は、スプーンに掬った花型の人参を見て、にやりと笑うと

「何だ、ありふれてるな。もうネタ切れか?」

「! てめえ……」

「どうせならもっと色々な形があった方が楽しいのにな。星と花だけか。つまらん」

「………」

 返す言葉がない。

 憮然とした顔で杵築を睨む。

「もう少し頭をひねろよ」

「……うるせえ」

 からかうように言われ、ますます淳平の顔が悔しそうにゆがむ。

 結局、今日も淳平の負け、だった。