夜の扉を開いて

 

 

 

 

    シャワーを浴びて出てきた瀬名生がベッドに戻っても、 藤見はまだ眠りに落ちた

ままだった。

  静かに枕元に腰を下ろし、 死んだように眠る藤見の顔をじっと眺める。

  また、 やってしまった……

  瀬名生は藤見を抱くたびに、 胸がうずくような罪悪感を感じていた。

  あの、 最初に強姦したときから自分の中に何か今までと違う自分が生まれた

ようだった。

  藤見の冷たい表情を見ると、 どうしてもそれを突き崩したくなってたまらない。

  今日もそうだった。

  藤見を見るまでは、 今日こそはこんなバカなことは止めようと理性的に

考えていた。

  藤見には脅すようなことを言ったが、 瀬名生には本当に彼のことを誰かに

言うつもりなど毛頭ない。

  なのに、 あの脅迫の言葉を盾に、 こんな関係をずるずると続けている。

  そんな自分が信じられなかった。

  今日こそは終わらせる。

  しかし、 そう考えていたのは藤見の顔を見るまでだった。

  無表情に自分を見上げる冷たい瞳に、 瀬名生の理性が働く前に手が

動いていた。

  白衣を脱ごうとする藤見の腕を掴み、 強引に自分の側に引き寄せた。

  驚き、 抵抗する彼を押さえ付けて乱暴に下半身をまさぐり、 冷たい表情が

怯えたものに変わっていくのをじっと見続けた。

 「……続きは家に帰ってからだ。」

  そう囁く瀬名生に、 藤見は諦めたように目を伏せた……。







  瀬名生はベッドの上に目を落とした。

  目の前で眠り続ける藤見の頬には涙の跡が幾筋も残っている。

  今日初めて後ろで快感を味わう彼の嬌態を見た。

  身も世もなく乱れる彼はすさまじく艶やかだった。

  全身をかすかに桃色に上気させ、 嬌声を発し続けた。

  今思い出しても背筋にぞくぞくとしたものが走る。

  幾度か抱くうちに、 瀬名生は藤見が最初言ったほど男に抱かれ慣れていない

ことに気付いていた。

  多分、 あまり快感を得たこともなかったのだろう。

  どこか戸惑いの混じったぎこちない行為がそれを物語っていた。

  それでも暴走する自分を止めることが出来なかった。

  どこかで自分に心を閉ざしている藤見を感じ、 そのたびに苛立ちが湧きあがり

行為が乱暴になっていった。

  自分の存在を認めさせるかのように、 いろんな行為を強制した。

  自分の下で自分のものを受け入れ、 快楽に身悶える藤見を見続けた。

  「……俺は何をやってるんだ……」

  ふとかすかな自己嫌悪を感じる。

  それとともに、 意識を失う前に藤見が見せたあの微笑が脳裏によみがえる。

  自分の腕の中で安心するように自分を見た藤見。

  あの瞬間、 自分の体の中を電流が走った。

  それはどこか甘いものを含んでいた。

 「あれは一体……」 

  一瞬で消えたその表情に、 瀬名生の心が捕われる。

  まだ、 はっきりとした形にならない何かを自分の中に感じる。

  瀬名生はあの表情の意味は読み取ろうとするかのように、 今は笑みの消えた

藤見の寝顔に目を凝らす。

  あの微笑みはなんだったのか。

  そしてこんなに藤見が気になる自分はどうしてしまったのか。

  答えのわからないまま、 眠る藤見を眺める続ける。

  ただ、 あの微笑をもう一度見たいと思った。







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