夜の扉を開いて

 

10

 

 

 

    藤見はかチンッという音に目を覚ました。

  目を開けると、 自分の部屋ではない白い天井が見えた。

  横に目を向けると、 瀬名生がベッドに腰掛けてタバコに火をつけていた。

  まだはっきりしない意識の中で、 空を漂う煙をぼんやりと眺める。

  そのうち、 自分が瀬名生に抱かれたまま意識を失ったのだと気付いた。

  横たわったまま瀬名生の姿をじっと見つめるともなしに見つめる。

  シャワーを浴びたのだろうか。

  しっとりと濡れた髪の毛が額にかかっていた。

  何か考え込むような表情でタバコをふかすその姿に、 藤見は心のどこかが

締めつけられるような感情をおぼえた。

  しかし、 その感情はすぐさま暗いものに変わった。

  記憶の中のあの知らない人間を見る冷たい瞳が、 心の中のどこか懐かしい

甘さを含んだ感情を暗く冷たい怒りに変えていく。

  それとともに男の強いた様々な姿態が脳裏によみがえる。

  自分を玩具のように弄ぶ男の面白そうにゆがめられた口元を思い出す。

  あの口で自分に信じられない行為を強いる言葉を吐いたのだ。

 ”やれよ、 簡単だろう……”

 ”いやらしいな、 先生。 もうこんなに濡れてるぞ”

 ”もう一度……… もう一度だ”

  意識を失う直前に強いられた行為が蘇って来る。

 「あ……あ…」

  思わず自分の体を抱きしめた。

  あの目も眩むような凄まじい快感を思い出す。

  瀬名生に激しく突き上げられ、 中を掻き回されて、 狂ったように嬌声を

上げ続けた自分が信じられない。

  自分の中の男を離さないというかのように内襞がからみついた感触さえ

まざまざと思い出された。

  少しでも多くの快感を得ようと、 最後には自分も自ら腰を振っていた。

  そう、 あのとき確かに自分は後ろで快感を得ていたのだ。

  それも今まで感じたことのないほどの……

 「い…やだ……」

  あの、 まるで娼婦のように乱れ喜んだ自分に恐怖を覚える。

  自分の体がどうなってしまったのか。

  足元から崩れるような不安に襲われる。

  瀬名生の手によって変わっていく自分の体が怖かった。

 「……気がついたのか。」

  身を震わす藤見に気付いたのか、 瀬名生が声をかけてきた。

 「シャワー浴びるか?」

  そう言って手を伸ばしてくる。

 「ひ……っ 触らないで!」

  自分に近寄る男の手に恐怖を感じ、 思わず叫ぶ。

  少しでも男から離れようと身を捩じらせていた。

  その様子に瀬名生の表情が厳しいものに変わる。

 「……いい態度だな、 藤見先生。 さっきまであんなに俺にしがみついて

喜んでいたくせに。」

  その言葉に藤見の体がびくっとする。

 「いまさら ”触るな” はないだろう。 散々俺に抱かれておいて。 それとも

やっぱりまだ俺の抱き方がお気に召さないのか?」

 「ちが……っ」

  だんだん不穏になる空気を感じ、 藤見がさらに恐怖を感じ体をすくめる。

  自分から目を背ける藤見に瀬名生は目を剣呑に光らせると、 手にしていた

タバコを灰皿に押しつぶし、 ベッドの上に上がってきた。

 「ひ……っ」

  ぐいと肩をつかまれて思わず悲鳴を上げる。

  だが瀬名生はかまわず藤見の体を覆っていたシーツを剥ぎ取ると、 無理矢理

両足を広げ自分の身体を割り入れた。

 「まだ満足していただけないようだから、 俺も勉強させてもらうとしよう。 ……

まったく藤見先生もたいしたもんだよ。 こんなに淫乱で貪欲な身体、 俺は初めて

だぜ。」

 「違う……っ や……っ いやっ」

  明確な意思を持って動き始めた手に瀬名生がまた自分を抱こうとしていることに

気付き、 藤見は真っ青になって身を抗った。

 「そう邪険にするなよ。 今度はちゃんと満足させてやる。」

  瀬名生は意地悪く口元をゆがめると、 まだ先程の行為で潤んでいる後庭に

いきなり指を突き入れた。 

 「あああっ」

  ぬるりと抵抗なく入っていく指に藤見が悲鳴を上げる。

  しかし、 痛みは感じなかった。

  痛みを感じるどころか、 根元まで突き入れられた指がからかうように中を

掻き混ぜはじめると、 覚えのある快感が背筋を走る。

 「いっ いやっ あっ あっ どうし……っ いやあっ」

  下半身を快感に突き崩されて、 藤見は信じられないという思いに目を見開く。

  前を触られたわけでもない。

  後ろを弄られただけで快感が身体を突き抜ける。

 「いい身体だな。 ちゃんとさっきの快感を覚えている。 ほら、 俺の指を食い締めて

離さない。」

  瀬名生は自分の指を引きこむように動く内壁の様子を面白そうに口にする。

 「い……やだ……あっ ああっ はあっ は……あっ」

  瀬名生の言葉を否定するように首を振りながらも、 藤見は下肢を責める指に

翻弄され続けた。

 





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