夜の扉を開いて

 

 

 

 

    瀬名生の言葉はその場限りのものではなかった。

  仄めかした通り、 時間があれば藤見を呼び出し彼の体を抱くようになった。

  さすがに二人とも医者という立場もあって、 普段は仕事に差し支えるような無理な行為

はしなかったが、 藤見が休日の前の日は必ず瀬名生のマンションに連れ帰り、 延々と

明け方まで体を貪る。

  その日も明日が休みだという藤見は、 彼の仕事が終わるのを待っていた瀬名生に

拉致されるようにそのまま部屋に連れていかれた。

 「どうした? 体が止まってるぞ。」

  瀬名生は自分の体の上で石のように体を硬直させている藤見をからかうように見上げた。

 「……で、 できない……こんな……」

  仰向けに横たわる瀬名生の腰をまたぐように膝をついた藤見は、 その状態のまま

ずっと体を強張らせていた。

 「そんなことないだろう、 少し腰を下ろせば済むことだ。」

  シャワーを浴びて出てきた藤見に瀬名生はこともなげにこう言った。

 「今日は藤見先生の方からしてもらおうか。」

  その言葉の意味を理解したのは、 瀬名生がベッドに仰向けに横たわり自分を

手招いた時だった。

  瀬名生は藤見に自分の手で彼を内に入れろと言っていたのだ。

 「簡単だろう? 何せ俺は下手だからな。 先生も自分でした方が好きに出来て嬉しい

だろう。」

  出来ないと怖気づく藤見を、 瀬名生は言葉で拘束する。

  それでも嫌がる藤見に瀬名生は仕方ないとばかりに前戯だけは施してやった。

  後ろの蕾を彼を受け入れられるくらいにまで解し、 丹念に潤滑剤を塗りこめる。

 「い、 や……おねがい……お願いだから……」

  その間、 藤見は身を震わせて懇願していた。

  だが瀬名生は準備を整えるとさっさとベッドに横たわり、 藤見の体を自分の上に

引っ張り上げた。

 「ほら、 もういいだろう。 自分で入れてみろ。」

  どうにもならないと観念した藤見はよろよろと体を起こすと、 瀬名生の体をまたいで

そのまま腰を下ろそうとした。

  が、 先端が入り口に触れた途端、 恐怖が沸き起こってきてどうしてもそれ以上

腰を下ろすことができなかった。

  いつまでもじっとしたままの藤見に瀬名生が焦れ始める。

 「どうした? いつまで待たせるつもりだ?」

 「……お、 ねがい……許して……」

  弱々しく首を振る藤見に、 焦れた瀬名生は彼の腰を両手で掴むとぐいっと力を

込めて引き下ろした。

 「ああああああっ!」

  藤見は自分の下半身に突き刺さる熱棒に体を割り裂かれ、 悲鳴を上げた。

  痛みと圧迫感が押し寄せる。

  いつもと違い、 下がった内臓が下から突き上げられる圧迫感は藤見を常より苦しませる。

 「あ、あ、あ……い、やあ……くる、し……」

  身をよじらせて自分を苦しめるものから何とか逃れようとする。

  その動きが余計に苦しみをもたらした。

 「じっとしてろ、 まだ全部入ったわけじゃない。」

 「ひ……っ いやっ、いやあっ」

  嫌がる藤見の体を押さえて、 瀬名生は一気に腰を突き上げた。

  根元まで全て納めてしまう。

 「あ……あ……っ」

  あまりの苦しさに藤見の頬を幾筋も涙が伝う。

 「そんなに泣くな。 もうそれほど痛くないだろう。」

  苦しむ藤見に少し罪悪感を感じたのか、 瀬名生がそっと頬に指を滑らす。

  瀬名生の言うとおり、 初めの頃ほどの酷い痛みは感じなくなっていた。

  しかし圧迫感は変わらない。

  何よりもまだ藤見は後ろで感じることができなかった。

  瀬名生には幾人もの男達と経験があるように言ってしまったが、 実際は初めて

瀬名生に抱かれてから誰とも寝たことがなかったのだ。

  ほとんど未経験の体に瀬名生の行為は辛すぎた。

  彼を受け入れるだけで精一杯だった。

  だが、 瀬名生の方では何度抱いても後ろで感じようとしない藤見に彼の頑なな心を

感じるようで苛立たしさを隠せない。

 「今日こそは先生にも感じてもらわないとな。」

  藤見の様子が少し落ち着いたのを見て取り、 瀬名生は決意を秘めた声でそう言うと、

ゆっくりと腰を動かし始めた。

 





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