夜の扉を開いて

 

 

 

  「嫌だっ やめて……いやっ」

  前よりも激しく抗うが、 すでに体力を使い果たした藤見の抵抗など瀬名生には子供ほどの

ものでしかない。

 「さっきたまたまもらったんだが、 ちょうど良かったな。 潤滑剤代わりだ。 」

  そう言って白衣のポケットから看護婦にもらった手荒れ用のハンドクリームを取り出す。

  片手で器用にチューブのキャップを外すと、 そのまま先を後庭に入れる。

 「あああ……っ いや、あっ」

  中に入ってくる冷たい感触に藤見は身を震わせた。

  小さなチューブの中身を全て藤見の中に出すとポイッと背後に容器を投げ捨て、 代りに

指を押し込んだ。

  中に入っている半固形のものをかきまわすようにして周囲に塗りこめていく。

 「うっ、うっ、う……あ、あ……ああ」

  ねっとりとした感触に藤見は嗚咽を抑えきれない。

  瀬名生は充分に内部に塗りこめると指を引き抜き、 自分の下半身を取り出す。

  剥き出しになった蕾に押し当てると、 無造作に中に突き入れた。

 「ひっ…い、あっ、あああ……むうっ」

  途端上がった悲鳴に慌てて藤見の口を手で塞ぐ。

  両腕を縛めていたもう片方の手を外すが、 藤見にはもう抵抗する力もなかった。

  その手で腰を掴むと、 おもむろに注挿を始める。

 「っ! 〜〜〜っ っ!っ!」

  乱暴に揺さぶられ、 藤見の目が大きく見開かれるが、 口を塞がれ悲鳴を出すことも

出来ない。

  嗚咽のようなものを喉から漏らすだけだった。

  その分、 目からは苦痛を訴える涙が次から次へと流れ出す。

  一方、 瀬名生はそのあまりの快感に瞠目する思いだった。

  きつく自分を締め上げる内部が信じられないほどの快感をもたらす。

  異物を追い出そうとする動きが絶妙な締め付けになる。

  こんなに頭の芯までしびれるような快感を味わったのは初めてだった。

 「ああ……すごい。 藤見先生、 すごくイイよ、君。 こんなの初めてだ。」

  夢中になって突き上げる。

  少しでも多くの快感を貪ろうとする。

  だが、 あまりの心地よさに長くはもたなかった。

 「ちくしょうっ まだ……まだだめだ……ああ、 くそっ」

  何とかもたせようとしたが、 暴走した体は勝手に動きを早めていく。

  藤見は激しくなる突き上げに悲鳴を上げることも出来ず、 ただ涙に濡れた目を見開く

だけだった。

  「はあっ、 あ……ああ……ううっ!」

  激しく奥まで突き上げた瀬名生がその動きを唐突に止める。

  欲望の証がしたたかに中に打ち込まれる。

  その熱い奔流を感じ、 藤見は身を震わせながら弱々しく首を振った。

 「ふ……う…」

  ずるリと楔が抜き出される。

  中に流し込まれた白濁がどろりと太腿を伝い落ちる。

  瀬名生は藤見の上から身を起こすと、 ようやく口を塞いでいた手を外す。

 「……うっ、うっ、うっ」

  藤見はたまらずにまた涙を流す。

  また、 瀬名生に体を奪われたのだ。

  しかも最初の時はそれでも合意の上だったのに、 今のは完全な強姦だった。

  無理矢理体を開かされた。

  藤見は悲しさと悔しさに溢れる涙を止めることが出来ない。

  そんな藤見の様子に、 欲望を果たした瀬名生がやっと正気に返ったように目を瞬く。

  途端、 自分のしたことがやり過ぎだったことに気付いた。

  いくら何でもここまですることはなかった。

  自分のしたことは強姦だった。

  罪悪感が沸き起こってくる。

 「……すまない、 こんなことまでするつもりは……」

  謝罪の言葉が口から出る。

  その言葉に藤見の肩がびくりと動いた。

  申し訳なさそうな顔をする瀬名生を涙に濡れた目が見上げる。

  藤見は自分に謝った瀬名生に驚いていた。

  先程の彼は心底自分を弄ぶことを楽しんでいたようだったのに。

  今の瀬名生は本当に悪いと思っているようだった。

  その姿に藤見の心が少し明るくなる。

  しかし次の言葉がまた藤見の心をどん底に叩き落した。

 「その……こんなこと、 初めてだったんだろう。」

  それは本当に彼が7年前のことを忘れ去っていることを示していた。

  自分は必死の想いで自分を捧げたというのに……。

  あのときのことをを忘れ去り、 そして今また自分を強姦した男に、藤見は憎しみを

おぼえた。

  許せない。

  そんな思いが彼に思いも寄らぬ言葉を口にさせた。

 「……初めてなんかじゃありません。」

  その言葉に瀬名生が驚いた顔をする。

  その顔をゆがめてやりたくてさらに言葉を続ける。

 「初めてじゃありませんが、 こんなに下手なのは初めてですよ。 今までの男性はもっと

上手に優しく私を抱いてくれました。」

  瀬名生の顔が険しくなる。

  自尊心を傷つけられたのだ。

  下手と言われたことが男にとっては何よりも許せない。

  何も知らない藤見を傷つけたと思った罪悪感が、 怒りに変わる。

 「……ならば教えてもらおうか。 先生はさぞ慣れておられるようだからな。」

  低い声で告げられた言葉に、 藤見は瀬名生の怒りを知った。

  言い過ぎた。

  しかし言った言葉はもう取り消せない。

 「え、 遠慮します。 私にも相手を選ぶ権利はあります。」

  震えそうになる声を抑えて男の言葉を撥ね付けようとした。

  だが、 そんなことで引き下がる瀬名生ではなかった。

 「いいのか? 今ここで君がどんな格好をしているのか外にいる連中に知られても?

いつも冷静な藤見先生が実は男に抱かれることが好きな人間だったと知れば、 病院の

連中はどんな顔するだろうな。」

  みるみる藤見の顔が青ざめていく。

 「そんな……」

  その顔に満足そうに瀬名生は最後通牒を突きつける。

 「楽しみだよ。 これから君が俺を楽しませてくれるんだろう? 上手な男の抱き方とやら

をじっくり教えてもらうとしよう。」







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