夜の扉を開いて

 

36

 

 

 

    達した後、 二人重なり合ったまま荒い息をついていたが、 しばらくして瀬名生が体をずらした。

  と同時に藤見の中から瀬名生のものがずるりと抜け出ていく。

 「あ……」

  その感覚に、 また藤見の口から吐息が漏れた。

  体の上から退いた瀬名生は傍らに身を横たえると、 藤見を腕の中に引き寄せた。

  そして彼の髪や額にキスを落とす。

  藤見はそれを受けながら目を閉じた。

  体の奥にまだ熱がくすぶっていた。

  瀬名生を受け入れていた場所がまだ彼の存在を感じ、 熱く疼いている。

  それを心地よく感じながらも自分の中にまた不安がこみ上げてくるのを感じた。

  まだ瀬名生は自分を好きだと言ってくれるだろうか。

  長年藤見の中に根を張っていた不安や疑念はそう簡単には消えてはくれなかった。

 「藤見?」

  胸の中の存在がふいに緊張するのを感じ、 瀬名生はその顔を覗きこんだ。

 「藤見、 どうした?」

  問いかけても返る言葉はなかった。

  藤見は瀬名生の胸に顔を埋め、 小さく体を丸めている。

  そのまるで自分を守ろうとするかのような様子に、 瀬名生は小さくため息をついた。

  そう簡単に藤見が完全に自分を信頼してくれるようになるとは思っていなかった。

  彼を好きだという言葉を受け入れ、 好きだと口にしてくれても心のどこかでその言葉を否定

しているのだろう。

  仕方ない、 全ては自分が撒いた種だ。

  完全に藤見が心を開いてくれるようになるまでにはそれ相当の時間と努力が必要だろう。

  そう思っても思い切れないものがあった。

  心のどこかで焦りを感じている。

  藤見の全てを早く自分のものにしたい。

  自分以外のものなど目に入らないくらい、 彼の何もかもが欲しかった。

  こんなに激しい独占欲が自分の中に存在していたことに驚く。

  しかしそれに心地よいものを感じているのも事実だった。

  こんなにも自分の心を虜にする存在にめぐり合えたことに感謝したいくらいだった。

  愛しい、 愛しい、 愛しい。

  彼の全てが愛しかった。

  自分を好きだという心も、 臆病で繊細で優しいその心も、 自分が傷つけたその傷さえも

愛しかった。

  「愛してる」

  そう囁くと、 胸の中で藤見がそっと微笑むのを感じた。

 「愛してるよ」

  何度言っても言い足りない。

  彼を忘れてしまった時間の分も、 これから彼と過ごす時間の分も言い続けたい。

 「………愛してる」

  決して離さない

  そうつぶやきながら瀬名生は胸に顔を埋めたままの藤見の首筋にそっと口付けた。









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