夜の扉を開いて
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必死に目を閉じ、
彼の声を耳に入れまいとする。 「聞いてくれ、 藤見……っ」 全身で拒絶を示す藤見に瀬名生は必死に訴え続けた。 彼の心から苦しみを取り除いてやりたい、 その一心で。 悪いのは全て自分なのだ。 あの夜も今も自分さえもっと………悔やんでも悔やみきれない。 それが藤見の心を閉ざし、 彼から笑みを奪ってしまった。 それだけは彼に返してやりたい。 彼に明るい世界を持って欲しかった。 人を信じて、 誰かに笑いかけることのできる世界を。 「俺を許されなくていい。 でも、 これだけは信じてくれ。 俺がお前を愛していること、 お前をもう傷つけたりはしないということを……」 「…………やめて、 ください……」 訴え続ける瀬名生に、 やっと藤見が小さな声で答える。 「もう、 やめてください………どうして……」 涙を浮かべた瞳が弱々しく瀬名生を睨む。 「どうしてもう私を放っておいてくれないんですか。 そんな言葉で私を惑わそうと するんですか……っ もう何も感じたくないのに……忘れたいのに……っ」 とうとうあの夜のことを肯定する言葉を吐き出す。 しかしずっと苦しみ、 疲れ果て磨耗した精神は瀬名生の想いを拒絶した。 どうしても彼の言葉を受け入れることが出来ない。 それを受け入れてしまえば、また自分が苦しむことになると、 そう怖れる心が藤見を 縛り付ける。 しかし瀬名生の言葉に歓喜する心もまたあった。 信じたい、 でも信じられない……いや、 信じるのが怖い。 二つの感情が藤見を苛み続ける。 心の中で葛藤を繰り返す。 ゆらゆらと揺れる眼差しが藤見の内心の苦悩を物語っていた。 目の前の男はじっと自分を見つめ続ける。 その瞳の光の強さに目が眩みそうになる。 信じられないと、 そう思いながらもその光から目をそらせなくなる。 引き寄せられる……っ いやだ。 心の中のいまだ癒されない傷が嫌だと叫ぶ。 怖い、 もう傷つきたくない、 と。 「もう………あなたなんか好きになりたくないのに………っ」 「藤見……っ」 心の中の苦しみを吐き出すように出された言葉に瀬名生は目を見張った。 いつしか藤見の目から涙が溢れていた。 次から次へと頬を流れ落ちる。 「………あなたなんか……あなたなんか………っ」 泣きながら伸ばされた手が瀬名生の胸を弱々しく叩いた。 あなたなんか、 と繰り返しながら何度も拳を打ちつけられる。 力の入らない拳に痛みは感じない。 しかし瀬名生の心が痛みを訴える。 何度も打ちつけられる拳に、 藤見の今までの悲しみがこめられていた。 そして、 小さくつぶやかれる言葉。 「……あなたなんか……好きにならない………好きじゃない……っ」 しかし瀬名生はその言葉の裏に、 瀬名生が好きだという彼の言葉を確かに聞いた。
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