夜の扉を開いて

 

26

 

 

 

    ピンポーン、ピンポーン………

  何度も鳴り響くドアベルに藤見は顔をしかめた。

  誰だと思いながら時計を見る。

  午前1時過ぎ。

  もう夜中をすでに回っている。

  一体誰が………

  そう思いながら読んでいた本を閉じてベッドから下りると、 リビングに向かいインターフォンを

取り上げた。

 「…………はい」

 ” 俺だ………瀬名生だ ”

  その声に藤見は体を強張らせた。

  どうして彼がこんな時間に………一体………

  今一番会いたくない人間の声に動揺を隠せない。

  あの日、 瀬名生の胸で泣いてしまった日から、 藤見は必死に彼を避け続けた。

  あの時垣間見た彼の優しさに、 自分を抱き寄せて胸で泣かせてくれた温かさに、 この7年間

必死に忘れようと心の奥に閉じこめてきたものがあふれ出てきそうだった。

  このままだと、 また彼への報われない想いに苦しまなければならない。

  その怖れから、 瀬名生の姿を目に入れることさえ避けていたのに………

 ” 藤見? ”

  インターフォンを持ったまま立ちすくんでしまった藤見に、 瀬名生が機械の向こうから

再度声をかける。

 ” ……こんな時間にすまないが、 入れてくれないか? …………話がある ”

  藤見はしばらくためらっていたが、 インターフォンを元に戻すと玄関に向かって歩いていった。











  ドアを開けると、 瀬名生がそこに立っていた。

  藤見は彼の様子がどこかおかしいことに気付き、眉をひそめた。

  顔色が悪い。

 「すまないな、 こんな遅く………」

 「いえ………」

  ふっと笑みを浮かべる顔がどこかぎこちなかった。

  おかしい。

  こんな彼は初めて見る。

  いつもの自信に満ちた彼とは違っていた。

  藤見の様子を窺い、 彼を気遣う風を見せる。

  何かあったのだろうか。

  そう思い、 首を振った。

  彼に何があろうと自分には関係ない。

  そう、関係ないのだ。

 「……どうぞ」

  彼を気遣ってしまいそうになる自分に言い聞かせながら、 藤見は瀬名生を中へと招き入れた。

  狭いリビングのソファに腰を下ろす瀬名生を横目に見ながらやかんを火にかける。

 「今、 お茶を淹れますから……」

 「気にしないでくれ」

  そう答える彼からふっとアルコールの匂いがした。

  どこかで飲んできたのだろうか。

  瀬名生はキッチンに立つ藤見の後姿をじっと見つめていた。

  その視線が背中を向けていてもひしひしと感じられる。

  何があったのだろうか、 どうしてそんなに自分を見つめているのか……

  その視線の強さに藤見はかすかに息苦しさを感じた。

  震えそうになる手で急須に湧いた湯を注ぐ。

 「………どうぞ」

  瀬名生の前にあるテーブルに湯のみを置く間も、 彼の視線はずっと藤見に注がれていた。

  ふと自分の姿に恥ずかしさを覚える。

  ベッドに入っていたので寝着のままだった。

  髪も乱れているだろう。

  じっと彼の前に立っている事に落ち着かなくなり、 藤見は彼の前のソファに腰を降ろした。

  それを待っていたかのように、 瀬名生が口を開いた。



 







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