morning coffee

 

 

 

 

 「………えっと……」

  キッチンに入った藤見は、 しかし冷蔵庫の前で途方に暮れた。

  今までもっぱら外食に頼り自炊などしたことがなかったので、 何から手をつけていいのかさえ

わからない。

 「とりあえず………パン? トーストすればいいんだっけ」

  これならわかる。

  食パンを2枚取り出し、 トースターに入れる。

 「それから………卵? 目玉焼き……オムレツ……」

  オムレツはちょっと難しそうに思え、 目玉焼きを作ることにする。

  フライパンでそのまま焼けばいいだけだろうと考えたのだ。

  コンロにフライパンに置き火をつけると、 おそるおそる卵をフライパンの端にコンコンと打ちつける。

  少しひびが入ったところで割ろうとするが……

 「あっ」

  卵は無惨にも手の中でつぶれてしまう。

 「ああ………」

  フライパンの上に黄身がつぶれ、 殻も一緒になってしまった卵がぼとりと落ちる。

  藤見は仕方なく箸で殻を取り除いた。

 「このまま焼けばいいのかな………」

  多分そうだろうと納得し、 さて、と考える。

 「あとは……サラダ? あ、 コーヒーも淹れなきゃ」

  コーヒーはわかる。

  それだけは毎朝自分で淹れていたので慣れたものだった。

  手際よくメーカーをセットすると、 すぐにこぽこぽとコーヒーのいい香りが漂い出した。

 「あとサラダ、サラダ……と」

  冷蔵庫の中からレタスと胡瓜とトマトを取り出す。

  少し考え、 ソーセージも取り出した。

  目玉焼きの横に添えようとしたのだ。

  レタスを手で千切り、 ぎこちない手つきで胡瓜を切る。

  しかしメスを持つのとはやはり勝手が違うらしく、 思うように切れない。

  出来あがったものを見ると、 胡瓜はごろりと分厚く、 トマトは力を入れすぎたのか微妙に潰れて

しまっている。

  こんなはずでは……と藤見は情けない目を自分の作品に向ける。

  と、 なにやら焦げ臭い。

 「あっ!」

  見ると、 フライパンからもくもくと煙が出ている。

  慌てて火を止めるが、 中身はもう炭状態だった。

 「ああ………真っ黒……っ! そうだっ トースト……っ」

  思い出してトースターに駆け寄るが、 すでにパンも黒焦げだった。

 「どうして………」

  藤見はしょんぼりと肩を落とした。

  あまりの無惨さに自分がなさけなくなる。

  こんな朝食すら作れないなんて………

 「どうしよう………」

 「何が?」

  つぶやく言葉に答える声があった。

  慌てて振り向くと、 瀬名生がダイニングの入り口に立っていた。