morning coffee

 

 

 

 

    目覚めた瞬間、 藤見は自分が今どこにいるのかとっさにわからなかった。

  目に入った天井がいつもと違う。

 「………?」

  体を起こそうとした藤見はその時に自分に巻きつく腕の存在に気付いた。

 「あ……」

  頬が赤くなる。

  ………そうだった……ここは……

  瀬名生と自分の新しい新居なのだ。

  昨日一日かかって引越ししたことを思い出す。

  初めは瀬名生が言ったように彼の部屋で二人暮らす予定だったのだが、 どうせならと新しく部屋を探す

ことになったのだ。

  二人が合う休日に不動産を歩いて見つけた部屋。

  広いリビングと寝室のある3LDKのこの部屋に昨日二人して引っ越してきたのだ。

  新居………そう考えて藤見はまた赤くなった。

  これからここで彼と一緒に暮らすのだ。

  くすぐったいような胸がしめつけられるような、 そんな思いが込み上げてくる。

  見下ろすと、 瀬名生はまだぐっすりと眠っている。

  藤見は瀬名生の寝顔を見るのも初めてなことに気付いた。

  目を閉じた瀬名生はいつもよりも無防備に見えた。

 「寝てる………」

  深い眠りに陥っている彼はしばらく起きそうにない。

  無理もない、 昨日は重い荷物などはほとんど彼がしてくれたのだ。

  自分も手伝おうとしたのだが、 藤見の細い腕ではたいして力になれなかった。

  疲れてるんだな。

  その上、 昨夜は 「新居での初めての夜だから」 と瀬名生が常にも増して情熱的だったのだ。

  引越しの作業で疲れているのではと気遣う藤見を二人のために新しく購入したキングサイズのベッドに

押し倒し、 そのまま明け方まで延々と愛され続けた。

  瀬名生のあまりの精力絶倫ぶりに最後には藤見の方が 「もう眠らせて」 と泣いて懇願したほどだ。

  激しく攻められ、 意識を朦朧とさせながら嬌声を上げ続けたことを朧に思い出す。

  多分、 力尽きて意識を失うように眠ってしまったのだろう。

  最後の方はもう覚えていなかった。

  瀬名生を受け入れ続けた秘所が激しかった昨夜を思い出させるようにズキズキと甘く疼く。

  まだ彼を受け入れているような錯覚さえ覚える。

  ふと自分の体を見下ろすと、 パジャマを着ていることに気付く。

 自分で着た覚えはもちろんない。

  汗ともろもろでドロドロになったままのはずの体もさっぱりとしている。

 「あ………」

  藤見は真っ赤になって瀬名生を見た。

  彼が後始末をしてくれたことに気付いたのだ。

  意識を失ってしまった自分の体を…………

  その場を想像して、 また恥ずかしさに悶えそうになる。

  起きた彼とどう顔を合わせればいいのだろう。

  恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がない。

  どうしよう、 どうしようと半分混乱しながら考える。

  と、

 「あ、 もうこんな時間……」

  一人うろたえて周りを見回していた藤見は、 ふと時計に目をやって昼もとっくに過ぎて

いることに気付いた。

  昨日、 今日と引越しのために休みを取ってはいるのだが、 それでももう起きていい時間だろう。

 「…………朝食、 作ろうかな」

  瀬名生の寝顔を見ながらちょっと考え、藤見はそう照れたように言った。

  彼のために……。

  そう考え、 胸の中がくすぐったくなるのを覚えた。

  そして眠る瀬名生を起こさないように、 そっとベッドから抜け出した。

 「っ!」

  足を床に下ろした瞬間、 腰に鈍い痛みが走った。

  それが次の瞬間には甘い疼きに変わる。

  思わず吐息を漏らし、 慌てて背後の瀬名生を振り返る。

  しかし瀬名生は依然眠ったままだった。

  藤見は小さく息をつくと、 今度こそ朝食の準備の為にキッチンへと向かった。