morning coffee

 

 

 

 

  瀬名生は怪訝な表情でキッチンを見ていたが、 藤見が何をしていたのかを悟ると嬉しそうに笑みを浮かべた。

 「もしかして、 朝食を作ってくれたのか?」

  そう言って近づいてくる。

 「! だめ………っ 来ないでっ」

  藤見は慌てて隠そうとしたが、 それより早く瀬名生が無惨な結果を見て取る。

  見られた………っ

  あまりの恥ずかしさと居たたまれなさに藤見はその場で小さく俯くしかなかった。

  こんな簡単な食事の仕度さえ出来ない自分に彼は呆れているに違いない。

  そう思い、 泣きたくなる。

  しかし、 瀬名生は呆れるどころか嬉しそうに微笑んだまま藤見の体を引き寄せた。

 「すごく嬉しい。 今まで食事を作ったことがない芳留が俺の為に朝食を作ろうとしてくれたんだろう?

最高だな」

 「………でもパンも卵も真っ黒になってしまって………サラダもあんな……」

 「大丈夫。 せっかくの芳留の手料理食べなきゃ勿体ない」

 「食べる……っ?! だめっ!!」

  瀬名生の言葉に藤見は慌てて首を振った。

 「こんなの食べたら体に悪いからっ 絶対だめっ!」

 「………焦げているところを切り落とせば大丈夫だろう」

  藤見の剣幕にちょっと考えた瀬名生がそう答える。

  しかし藤見は頑固に首を横に振り続けた。

 「こんな、 真っ黒なもののどこを食べれるって………発癌物質の塊じゃないか。 こんなの食べたら絶対ダメっ」

 「………仕方ないな」

  必死にだめだと言い続ける藤見に、 瀬名生はしぶしぶ言葉を受け入れた。

 「せっかくの芳留の手料理………」

  しかし視線は未練がましく真っ黒な物体に注がれている。

 「あの………コーヒー淹れているけれど…………サ、 サラダ………食べる?」

  そんな瀬名生に藤見が先ほどの剣幕もどこへやら、 おそるおそる訊ねてくる。

  差し出された不恰好な野菜の盛られた器に、 しかし瀬名生は心底嬉しそうな笑みを向けた。

 「じゃあ今度は俺が卵焼こうかな」

  そう言ってさっとフライパンを綺麗にすると、 手際よく卵を割り入れた。

  そしてトースターにパンを放りこむ。

  藤見は側で見ていて、 卵を焼くにはフライパンにまず油をしかなければならないこと、 目玉焼きは少し水を

入れて蓋をし火は弱火にすること、 そしてトーストはトースターのタイマーをちゃんとセットしておけば焼きすぎ

ないことなどなどを初めて知った。

 「………私って本当に料理のこと、 何も知らないんだな………」

  瀬名生の手際のよさに、 ますます藤井は落ち込むばかりだった。

 「でもこれで一つ覚えただろう? 今度はちゃんとできるさ………楽しみにしているよ」

  そう言ってキスをくれる瀬名生に、 藤見は今度こそと心に誓った。

 「貴士さんに美味しいもの食べてもらえるように頑張りますね」

  か、 可愛い………

  真剣な表情でそう言う藤見があまりに可愛くて、瀬名生はフライパンを操っていることも忘れて思わず

彼を抱きしめそうになった。

  昨夜あんなに散々抱いたのに、 また欲望がこみ上げてくるのを覚える。

  それを何とか抑えこむと、 瀬名生は急いで食卓に皿を並べた。

  さっさと食事を済ませて、 また藤見と寝室に閉じこもろうと考えていたのだ。 

  そんな瀬名生の心の内も知らず、 藤見は無邪気に瀬名生の料理に感心していた。

 「さ、 食べようか」

 「はい、 いただきます」

  そう言い合って、 藤見がふいに恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 「?」

  コーヒーを口にしようとしていた瀬名生が何だと手を止める。

 「いえ…………これからこうやって貴士さんとずっと一緒に暮らしていくんだなあって思うと…………」

  なんだか夢みたいで………

  そう頬を染める藤見に瀬名生は下半身を直撃された気分だった。

  食事が終わるまではと我慢するつもりだったが、 そんな余裕もなくなる。

 「芳留……」

 「? 貴士さん?」

  おもむろに腕を掴まれ、 そのままぐいと立たされて藤見は驚いた。

 「悪い、 もう我慢できない」

  そう言うと瀬名生は藤見の体を抱き上げ、 寝室へと逆戻りした。

 





  結局二人が朝食を食べることができたのは、 夜も遅くなってからのことだった。

  その時に瀬名生が藤見の作ったサラダをしっかりと平らげたのは当然のことだった。







  藤見はその後一生懸命に料理を覚えようとしたが、 それが身を結んだかどうかは謎。















                           END