楽園の瑕
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ファビアスがここにいる。 ここにいて自分を抱きしめている。 自分を抱きしめる腕の熱さ、その力強さを感じ、サラーラは心の底から安堵している自分を 知った。 ああ、自分はこんなにもファビアスに会いたかったのだと、気づいた。 「ファビアス様……」 名を口にすると抱きしめる腕の力が強くなるのを感じる。その強さが嬉しい。 「ファビアス様……ファビアス様……」 何度も名を呼びながら、自分もその熱い体をしっかりと抱きしめる。 離れたくなかった。 もう、二度と彼の側から離れたくない………。 その思いのままに、ファビアスにしがみつく。 「ファビアス様……っ」 いつの間にか、この腕の中が一番自分の安らげる場所になっていた。 ここが、自分の場所なのだと、そう実感する。 「………ファビアス様……帰りたい……」 「ん?」 サラーラの呟くような声に、ファビアスが確認するようにその顔を見る。 「…ファビアス様……僕、帰りたい。 城に……城の、あのファビアス様と僕の部屋に……」 その言葉に、ファビアスは一瞬目を見開き、大きな笑みを浮かべた。 「ああ、戻るぞ。城に」 優しい手つきで頬を撫でると、ファビアスはその両腕にサラーラを抱き上げた。 「城に戻る。 準備を急げ」 マナリスの残党達を縛り上げていた兵士達に鋭く命じる。 ファビアスの声に兵士達はその動きを早めた。 それを見渡しながら、ファビアスは己の馬へと歩き出した。 サラーラはその腕の中で、安らかな笑みを浮かべていた。 「く、そう………っ!」 突然、呻くような声がした。 と、同時に、ファビアスの背後で白刃が閃いた。 「……何っ?!」 「うわっ!」 倒れていたはずのギルスが、最後の力を振り絞るようにして自分を縛り上げようとする兵士を 斬りつけたのだ。 斬られた兵士が倒れ伏すのにも目もくれず、ギルスはそのまま目の前のファビアスへと 斬りかかった。 「うわああああっ!!」 「陛下っ!」 叫び声に振り返ったファビアスは、剣を振りかざしながらこちらに突進するギルスの姿を 目にした。 が、両腕にサラーラを抱えていて剣を抜くことができない。 「っ!」 「うわあああっ!!!」 ギルスが奇声を上げながら剣を振り上げる。 その瞬間、ファビアスは自分に向かって振り下ろされる刃から、サラーラの身を自分の体で 庇っていた。 |