楽園の瑕




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 眼前の光景を目にした途端、ファビアスは怒りに目の前が真っ赤になるのを感じた。

 サラーラが……その首に巻き付いた手が示すものは………。

「貴様………っ!」

 考えるより先に飛び出していた。

 怒号を上げてサラーラに害をなそうとしている男に剣を振りかざす。

 男……ギルスは、突然現れたファビアスに一瞬呆然としていたが、明らかに殺意を持って

自分に襲いかかる男の姿に慌ててサラーラから手を離すと自分も剣を抜こうとした。

 ギルスの手から解放されたサラーラがふらふらとその場に倒れこむ。

「サラーラを!」

 それを見たファビアスは後に従ってきた兵士にサラーラを保護するように命じ、自分は殺して

も飽き足らない憎い相手に突進した。

 ……ガキッ!

「……っ」

 何とか剣を抜き、かろうじてファビアスの剣を受け止めたギルスだったが、息つく暇もなく

次々と繰り出される剣先に次第に顔を歪ませた。

 ファビアスの剣を受けるごとに、その凄まじい力に腕が痺れる気がした。 剣を落とさないよう

にするだけで精一杯だ。

 荒々しく激しいファビアスの剣は、そのまま彼の怒りの深さを物語っているようだった。

 周りでも兵士達とマナリスの男達の剣を交える激しい剣戟の音や怒号が聞こえてきたが、

今のギルスにはそれに気づく余裕もなかった。

「貴様ら、やはりマナリスの者か……サラーラに何をしたっ」

 剣を振りかざしながら、ファビアスは怒りに満ちた声で怒鳴った。

 胸の中が怒りに煮えくりかえっっていた。

 サラーラを殺そうとしていた。

 あの細い首にかかった手。 蒼白になったサラーラの顔。

 もう少し自分が来るのが遅ければ………。

 思うだけで激しい怒りに襲われる。

 あれは自分のものだ。 それをこの自分の手から盗み出し、あまつさえその命を奪おうと

するとは…っ

「許さんぞ。 その罪重いと知れ」

 怒りのままに剣を振るう。

「……許さない? それは……こちらの言葉だ……っ!」

 防御に必死になりながらも、ギルスはファビアスに吐き捨てるように言った。

「王子をあのように堕落させ、その上汚らわしい存在を身に宿すような売女に…っ あのような

者が我らの王子などとは情けなくて涙が出るっ もはやこの世に存在することも許せん」

「な…んだと………」

「生きているだけで罪なのだっ マナリスを裏切った罪は死んで償っていただくのだっ その体に

宿した罪とともになっ」

「黙れっ!!!」

 一声吼えると、ファビアスはギルスに向かって大きく剣を振った。

「……っああっ!!」

 ……ガッ………キ…ンッ!

 己の剣で受け止めようとしたギルスだったが、ファビアスの一撃はその刃を砕き、ギルスの

体を襲った。

「うあああああっ!」

 右肩に焼けつくような激しい痛みが襲う。

 ギルスは手から剣を落とすと、あまりの痛みに地面に転がった。

 その姿をファビアスは怒りに燃える目で見下ろした。

 



 













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