楽園の瑕
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「………サラーラ?」 暗い森の中を歩いていたファビアスの歩がふと止まった。 サラーラの声が聞こえたような気がしたのだ。 自分を呼んでいるような声が。 ファビアスはそれを気のせいとは思わなかった。 「俺を呼んだか? サラーラ」 サラーラが助けを求めている………いるのだ、確かにこの森に。 そんな確信が心の中に浮かぶ。 眉を顰めて周囲に目を走らせる。 どこだ………どこにいる………? どこを見ても、見えるのは暗闇にぼんやりと浮かぶ黒い木の影ばかりだ。 しかし、いるはずだ。 サラーラはこの森のどこかに。 「陛下? どうなさいました?」 立ち止まったまま動かない国王の姿に、後に側にいた兵士が気遣うように声をかけた。 しかしファビアスは声を返そうとはせず、ただ何かを探すようにじっと空を睨みつけていた。 と、その表情が変わる。 「サラーラッ!」 また聞こえたのだ。 かすかに……しかし確かに求める者の声が。 それほど遠くはない。 「どこだ……っ」 声が聞こえたと感じた方向へ、ファビアスは走り出した。 「陛下っ!」 「お待ちくださいっ」 急に走り出した王の姿に、付き従ってきた兵士達が慌てて後を追う。 そんな兵士にファビアスは一声怒鳴った。 「矢笛をっ! リカルドに知らせろっ!」 ファビアスの命令に、すぐさま矢が空に放たれた。 矢に取り付けられた笛が、夜の空気の中で甲高い音を出す。 その音は暗い森の中に 大きく響いた。 矢笛の音は、ギルス達の耳にも入った。 「な、何だっ 今の音はっ!」 「まさか、もう追っ手が森の中に?」 男達が俄かに慌て出す。 気づいていなかったのだ。 タラナート王の追っ手がすでに森の中に入っていたと。 それほど手配が早く回るとは予想もしていなかった。 見ると、それほど遠くない場所に多くの灯が動いているのがわかる。 その数の多さに男達の間に緊張が走った。 「ギルスッ! 追っ手が……っ」 サラーラの上に圧し掛かりかけた状態のまま固まっている男に声をかける。 ギルスはちっと舌打ちをすると、サラーラの上から身を離した。 涙を流しながら震えているサラーラに憎悪のこもった眼差しを向ける。 「お前への制裁は後だ。 とりあえず、一刻早くここから離れるぞ」 男達にそう言うと、 サラーラの腕を掴み体を引き起こした。 「いや……離して……っ」 弱々しくもがくが、男の強い力には到底敵わない。 引きずられるように歩かされる。 「いや…っ」 「大人しくしろっ! 来るんだっ」 「いやっ いやっ! ファビアス様……ファビアス様っ!」 「…っ! この……っ!!」 「ファビ…っんん……むうっ!」 助けを求めて叫ぶサラーラの声に、ギルスが慌てたようにその口を手で塞いだ。 いやいや、と首を振るがしっかりと口を覆ったその手は緩むことはなかった。 「さっさと歩けっ!」 それでもなおももがき続けるサラーラだったが、ギルスはそんな彼を強引にひきずり歩かせた。 |