楽園の瑕




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 目の前でみるみるうちに恐ろしい形相に変わる男を、サラーラは怯えた目で見ていた。

「自分の国じゃない………? マナリスは母国ではない、と………?」

 低く呟かれた声に、今まで以上の恐ろしさを感じた。

「そうか………そういうことか………っ」

「……ひっ!」

 ぐいっと乱暴に肩を掴まれ、痛みに思わず悲鳴を上げた。

「い、いやっ ファ…ファビアス様…ファビアス様あっ!!………きゃあっ!!」

 バシッ!

 逃れようとするサラーラの頬を、ギルスの手が張り飛ばした。

 その衝撃にサラーラの体が地面に倒れこむ。

 地に伏すサラーラを見つめるギルスの目は、ギラギラと狂気にも似た光を放っていた。

 その手がぶたれた衝撃に呆然とするサラーラに伸びる。

 はっと気づいた時には、もう遅かった。

「いや……やめ……っ」

 細い首に、手がかかる。

 と、その時、



「ギルスッ 何をしているっ!」



 驚いたような声がギルスの動きを止めた。

 他の男達がようやくギルス達を見つけたのだ。

 彼らはサラーラの首にかけられた手を見て、慌てて声をかけたのだ。

「ギルスッ 一体どういうつもりだ! 王子に手をかけるなど……っ」

 その内の一人が二人に駆け寄り、ギルスをサラーラから離そうとした。

「離せっ このような者、王子でも何でもないっ! こんな薄汚い淫売など……っ」

 自分を捕えようとする腕を乱暴に振りほどき、ギルスはなおも憎しみを込めた目でサラーラ

を睨んだ。

「ギルスッ お前、気でも触れたか…っ」

 ギルスの暴言に男達が非難の声を上げた。 まがいなりにもサラーラは自分達の国の

王子なのだ。それを………。

 しかし、その非難もギルスの次の言葉に消えた。

「この淫売はな。 マナリスを……自分の国を捨てたのだっ マナリスは自分の国ではないと

そう言ったのだ!」

「…なっ!」

 男達の間に衝撃が走る。 そしてそれはすぐに怒りへと変わった。

「何だとっ」

「それは本当か……っ」

 男達の怒りに燃える目がサラーラへと向けられた。

「あ………」

 サラーラは立つこともできず、男達が自分に向ける視線に怯えるしかなかった。

 どうしたらいいのかわからなかった。

 どうすれば………助けて……ファビアス様……。

 心の中でファビアスを呼ぶ。 ひたすらその名を呼び続けた。

 ファビアス様……ファビアス様………っ



「国を捨てるような裏切り者はもはやマナリスの民ではない。 ましてや王子などと………」

 吐き捨てるような口調でギルスが言った。

 その目はなおもサラーラに向けられている。 

「どうするつもりだ、ギルス?」

 男達の一人が尋ねる。

「裏切り者には制裁を。 ………そう、この淫売にふさわしい、な」

 その言葉に男達の間に嫌な空気が生まれたのを、サラーラは感じた。

「な、何………」

「国を裏切った罰をその身に受けてもらおうか。そのタラナート王に差し出した穢れた体で」

「っ!!」

 いつの間にか背後にいた男が、サラーラの体を地面に引き倒した。

 そのまま両腕を掴まれ地面へ縫い付けられる。

「い、いやあっ! 何を……っ!」

 目の前にギルスが迫っていた。 口元には嫌な笑みを浮かべながら。

 サラーラの全身を恐怖が襲う。



「いやっ いやあっ ファビアス様あ―――っ!!」




 








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