楽園の瑕




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 目の端に何かが光ったのが見えた。

「………っ」

 見ると、それほど遠くないところでぼんやりとした光が動いているのがわかった。

 その光が松明の火だということに、すぐに気づく。

 まさか………? ギルス達がもうこんな近くまで来ているのだろうか。

 そうとっさに思い、サラーラは真っ青になった。

 逃げなきゃ。 早く……早くここから少しでも遠くに……。

 そう思うが、体は動かない。
 
 どうしよう……見つかる……見つかってしまう………。

 男達に見つかってしまう恐怖に怯えながら、サラーラはその光をじっと見つめていた。





 …………が、少しして違和感を覚えた。

 何か……違…う……?

 光の数が多いような気がした。

 ギルス達の人数は、サラーラの覚えている限りでは十数人。

 しかし目の前の光は、どう少なくみても二十……いや、それ以上ある。

 ギルス達じゃ…ない。 そう、彼らじゃない。 別の、知らない………。

「もしかして………」

 サラーラの胸に希望の光が灯った。

 もしかして、ファビアスが助けに来てくれた………?

 いや、そうでなくとも助けを求めることはできる。 ギルス達から逃れることができる。

 ファビアスの元に戻ることができるのだ。

 俄かに失いかけていた気力が沸き起こり、サラーラは疲れきってがくがくと震える足に力を

振り絞るようにして必死に立ち上がった。

「…助けて………っ」

 僕を、ファビアス様のところに連れて行って……お願い………!

 救いの手に見えるその光に向かって、サラーラはゆっくりと歩き出した。










 しかしその直後、サラーラの体は、背後から伸びてきた腕に乱暴に引き戻された。

「っ!!!!!」

 咄嗟に悲鳴を上げようとした口が、大きな手でふさがれる。

 もがこうとした体は強い力で羽交い絞めにされ、身動きがとれなくなった。



「ようやく見つけたぞ」



 怒りを押し殺したような低い声が、耳元に聞こえた。 

「……っ!」

 聞き覚えのあるその声に、背筋に冷たいものが走った。

 それは、サラーラが見つかることをもっとも怖れていた相手、ギルス、だった。












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