楽園の瑕
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「何をするのっ! 無礼者っ その手を離しなさいっ! 聞こえないの? お離しっ!!」 甲高い声と共に、数人の兵に囲まれてモルディアがファビアスの前に連れて来られた。 モルディアの姿を見たファビアスは、目を鋭く光らせながら低く重い声で話しかけた。 「………妙な所で会うものだな、モルディア」 「あ、あら……ファビアス………」 ファビアスの姿に、目尻を吊り上げていたモルディアの顔がさっと変わった。 どこか引きつったような笑みを浮かべながらそわそわと髪に手をやり撫で付けるような 仕草をする。 「ど、どうしたのかしら、このような所で。 今貴方、とてもお忙しいって聞いていたけど? 城にいらしたんじゃないの?」 「俺がここにいるとまずいことでも? ……サラーラの誘拐に自分が関わっていると 俺に知れると大変だからな」 「っ!」 モルディアが息を呑む。 その顔が蒼白になる。 しかしすぐに気を取り直したのか、ファビアスににっこりと笑ってみせた。 「……何をおっしゃっているのかしら? サラーラ様? 誘拐? 何のこと? サラーラ様が どうかされたのかしら?」 「とぼけるなっ!!」 怒号が部屋中に響いた。 ひっとモルディアの口から小さな悲鳴が上がった。 部屋に控えていた兵士達の間 にも緊張が走る。 ぎらぎらと目を光らせ、怒りに満ちた凄まじい形相のファビアスがそこにいた。 部屋に入って来たモルディアの姿を見た瞬間、ファビアスは彼女が今回のことに 関わっていることを悟った。 そわそわと髪を触る彼女の手。 その指に嵌っているのは………。 「その指に嵌まっている指輪は何だ。 モルディア、どうしてお前がそれをしている」 ファビアスの言葉に、モルディアははっと自分の右手を左手で隠す。 「こ、これは……これは私のものよ。 お、お父様に……そ、そう、お父様からいただいた ものよ」 「見せろ」 「貴方には関係のないものよ。 見せる必要など……」 手を差し伸べるファビアスに首を振りながら、モルディアは少しずつ後じさった。 「見せろっ!」 「やめてっ!」 ファビアスはモルディアにつかつかと近寄ると、彼女の手をぐいと掴んだ。 「……お前のものだと? これがお前のもの、だと……?」 「そ、それは………」 モルディアの指に嵌まった指輪を乱暴にぐいっと引き抜き、彼女の目の前に差し出す。 「これはタラナートの王家に伝わる王妃の指輪だ。 俺がサラーラにやったものだ。 それがどうしてお前の指にある」 何とか言い逃れる術はないかと、モルディアは取り繕うような笑みを浮かべた。 「聞いて、ファビア……」 「どうしてこれがここにあるっ! サラーラはどこだっ!!」 「し、知らないわっ ……ひ、拾ったのよ。 私は関係ないわっ」 「偽りを申すなっ サラーラは……あれを攫った連中はどこへ行ったっ」 激しく問い詰めるファビアスに、モルディアは恐怖に震えながらも首を振り続けた。 自分が彼らに関わっていると、知られてはいけない。 知られては………。 「知らないわよっ どうして私がマナリスの連中と知り合いだっていうのよっ!」 「………何故、マナリスの仕業だとご存知なのです」 モルディアが必死に叫んだ途端、 リカルドの静かな声がした。 はっとモルディアが口を手で覆った時は、もう遅かった。 リカルドがモルディアを鋭い目でじっと見ていた。 ファビアスは激しい怒りに顔を 真っ赤にしていた。 「……モルディア、俺は一言もマナリスが絡んでいると言った覚えはないぞ。 どうして お前がそれを知っている」 低く、低く唸るような声が彼女の罪を問い詰める。 「あ………」 もはや言い逃れは出来ないと知ったたモルディアは、真っ青になるとその場にへなへな と崩れ落ちるように座り込んだ。 |