楽園の瑕




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「門をお開けなさい!」

「何だと?」

 国王の離宮であるこの宮殿の門を預かる自分達に、臆することなく開門を命じる女に

門兵達はさっと気色ばんだ。

 警戒の念を強めて不審者の顔を確かめようとした。 と、その表情が驚きに変わった。

「こ、これは……」

「私がわかったようね? さっさとここをお開けなさい」

 兵の態度の変化を察したモルディアは、口元に笑みを浮かべ、もう一度開門を命じる。

「し、しかし……王命によりだれであろうとここを通すなと……」

「私を誰だと思っているの? 王家に繋がりのあるタルア公爵家の令嬢よ。 私は国王の

使いとしてここに来たのよ」

「国王の?」

 モルディアの言葉に門兵は目を見開いた。

「そうよ」

 モルディアは赤く塗った唇を歪め、笑った。

 そして自分の後ろに控える男達を手で指し示す。

「この者達はサラーラ様の警護にと、王が直々に選ばれた者達。 そして私はサラーラ様

のお相手を、とのお役目をいただいたの」

「それは……」

 城の内部の事情に詳しい他の者だったら、モルディアの言葉に不審を抱いたことだろう。

 何故、城から追い出されたはずの彼女が王の命を受けることができるのか、しかも

サラーラのことを忌み嫌っているはずの彼女が。

 しかしあいにく彼はそのことをまだ知らなかった。

 先日休暇から戻ったばかりで、宮廷では大きな噂となったモルディアと王との確執の

ことも、サラーラとのことも全く知らなかったのだ。

 だから彼女の言葉をすんなりと信用してしまった。

「あ……そうでしたか。 これは失礼いたしました。 警護の者が来るという話は

伺っておりました。 お役目ご苦労さまです」

 門兵はそう言って深く礼をとると、閉ざされていた門を大きく開いた。








 やったわ。

 モルディアは心の中でほくそ笑んだ。

 が、表面上は素知らぬ顔でにこやかに門兵に頷いて見せた。

「ご苦労さま」

 そしてそのまま中へと足を進めた。

 その後を、十数人の男達が続いていく。

 門兵はモルディアに向けられた華やかな笑みにぼうっとなりながら、見知らぬ男達が

自分の前を通りすぎて中へと入っていくのを黙って見送った。








「簡単ね」

 無事に中に入り込んだモルディアはふふんと呟いた。

「驚いたな……あんた、王家に繋がりのある人間だったのか」

 モルディアの後に続いた男の一人がぽそりと言った。

「関係ないわ。 今の私には何の意味もないことよ。 それよりも私はファビアスを苦しめたい

のよ。 それもうんと、思い切り。 苦しんで苦しんで思い切り苦しんで後悔するといいのよ」

 私を捨てたことを。

 モルディアの顔が憎悪にゆがむ。

 その表情を見た男の口に苦い笑みが浮かぶ。

 何故彼女が自分達に協力するのか、その理由を知ったのだ。

 彼女はおそらく王の愛人か何かだったのだろう。 それがなんらかの理由で捨てられた。

 彼女ほどの美貌の持ち主ならその屈辱は相当激しいものだったに違いない。

「復讐か」

 ならばせいぜい協力してもらおう。

 何故自分達に協力して王子を助けることが国王を苦しめることになるのかわからないが。

 自分達の捜し求める王子が、実は憎むべき敵国の王の妃になっているとは夢にも思わない

男は心の中でそうつぶやいた。

 もうすぐ、敬愛する王子に会える、お助けできる。 そして祖国の復興を…!

 瀟洒な造りの建物の中へと、モルディアの後に続いて忍び込みながら、男達は期待に

心が高揚していくのを感じた。













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