楽園の瑕




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 腕の中に抱きしめられたと思った瞬間には唇を奪われていた。

「ん……っ」

 狂おしいほどに激しく求めてくる唇に、サラーラはその胸にただしがみ付くだけだった。

 いつの間にか部屋の中からノーザ達の姿が消えていた。

 気を利かせたノーザが子供達を部屋の外へ連れ出したのだ。

 クルシュさえも追い出されるように部屋から出されてしまっていた。

 今、部屋の中にはサラーラとファビアス、二人だけだった。

 しかしそのことに気づく様子もなく、二人は口付けに夢中になっていた。

「サラーラ…サラーラ…っ!」

 ファビアスがサラーラの名を呼ぶ。

 何度も熱く囁きかけてくる声にサラーラの心も次第に熱くなっていく。

 ……なんだろう……この気持ち……。

 ファビアスが……彼の声に、彼の熱い腕に、体に、かれの全てに、サラーラは自分の心が

熱く締め付けられるように疼くのを感じた。

 痛くて、でもその痛みは何故か甘くさえ感じて………。

 自分の名を呼ぶ彼の声を聞くたびに、胸の疼きはますます強いものになっていく。

 自分を見る彼の眼差しの色に、何故かドキドキする。

「何……?」

 こんなのは初めてだった。

 どうしてこんなに胸が痛いんだろう……。

 どうしてこんなに彼に抱きしめて欲しいって思うんだろう………。

 どうして彼を抱きしめたいって、彼に触れたいって思うんだろう………。

 どうして、どうして………。

 サラーラの心の中でざわざわと何かがざわめく。

 胸の疼きはますます激しくなって……それはファビアスにしか鎮められない、何故かそう思った。

「ファビアス様……!」

 だから、サラーラは心が求めるままに彼の首に抱きついた。

 そしてその唇に自ら唇を近づけた。

「!」

 ファビアスが息を呑む音が聞こえた。

 サラーラの体に回された腕に力がこもる。

 突然、ファビアスはサラーラの体を無造作に抱き上げると、近くの長椅子へと急ぎ足で

歩み寄った。

 どさりと椅子の上に横たえると、サラーラが身を整える間もなくその上に覆い被さってくる。

「ファビアス様……!」

「サラーラ、だめだ。もう我慢できない」

 そう呟くと、ファビアスは性急にサラーラの下肢にまとわりつく服をたくし上げると、興奮に

すでに熱く潤っている部分に自分の高ぶったものを突き入れた。

「あああっ!」

 衝撃にサラーラが目を見開く。

 が、その声に苦痛の色はなかった。

 両腕、両足がしっかりとファビアスにしがみ付いてくる。

 その仕草にファビアスの目に獰猛な光が宿った。

 ぐいっと激しく突き入れる。

「ああ……んっ!」

 途端、サラーラの口から嬌声が迸った。

「あ…っ、あ…っ、あ…っ」

 その声は途切れることなく、ファビアスの体の動きに合わせてサラーラの赤い唇から

絶え間なく漏れ出る。

「サラーラ…サラーラ……俺のサラーラ……!」

 ファビアスが熱に浮かされたように何度も何度も最愛の名を呼んだ。

 こんなにもサラーラの餓えていたのだと、全身で激しく訴える。

 激しく揺さぶられ、熱い想いをぶつけられて、サラーラもその熱に引き込まれた。

 絶頂はあっというまだった。

「あ…あ・・・あああああ!」

「………っ!」

 ほとんど二人同時に頂点に達していた。






 胸に男の吐く息が熱くかかる。

 自分にぐったりと全身を預けながら、はあはあと肩で息をしている男に、サラーラは

不思議な気持ちを覚えていた。

 胸をきゅうっと締め付けられるような感情が沸き起こり、何故か無性に男を抱きしめたく

なった。

 何故、そんな気持ちになるのか、わからないまま、サラーラは疲れて重く感じる腕をそっと

持ち上げた。

 ファビアスの乱れた髪に触れる。

 そのまま頭を自分の胸に抱くように抱きしめた。

 胸に温かい何かがこみ上げてくる。

 なんだろう………このくすぐったいような、締め付けられるような………。

 わからない感情がこみ上げてきて息苦しい。でもそれはどこか甘くもあって………。

「ファビアス……さま……」

 そっと男の名を呼ぶ。

 口にするその名もいつもと違って聞こえる。

「ファビアス様……ファビアス様……」

 呼ぶほどに、胸の苦しさも大きくなるような気がする。

 でも、何度でも言いたくて、口にせずにはいられなくて………。

 この気持ちは何……?

 サラーラは胸の中に広がっていく甘く苦しい未知の感情をじっと追っていた。

 







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