楽園の瑕

 

 

 

 

    タラナート城に帰城すると、 ファビアスは早速父である国王に戦勝の報告をするために

玉座の間に赴いた。

 「ファビアス、 ご苦労だったな。」

  ファビアスが広間に姿を見せると、 玉座に座った王が上機嫌に声をかけてきた。

  両側にはずらりと国の重臣、 戦いに同行した将軍達が並んでいる。

 「父上、 ただいま帰りました。 父上にもお変わりなく……」

 「よいよい、 堅苦しい挨拶はやめよ。 せっかくの祝い気分が削がれる。 のう、

ロアーヌ。」

 「まあ、 ガルフさまったら。 んん〜んっ」

  ファビアスの挨拶をうるさそうにさえぎると、 国王は膝に抱いた愛妾の腰を好色

な目つきで撫でまわした。

  愛妾の方もそんな国王の仕種になまめかしい嬌声をあげた。

  周りにいる家臣達は皆その国王達の様子を醒めた目つきで眺めている。

  若い頃は猛将で知られたガルフは、 年老いてくるとともに酒と女に溺れるように

なり、 今では朝から周りに女達を侍らせては酒をあおる毎日だった。

  今も酒に染まった赤ら顔で、 享楽の生活にたるんだ腹を突き出すようにして

近頃気に入りの愛妾とじゃれている。

 「……父上、 国王一家はほとんど自害しておりましたが、 王家に繋がる者達は

捕らえて連れてきております。 後ほど彼らの扱いなどについてのご指示をいただ

きたく……」

 「ファビアス。」

  眼前の光景を無視するように醒めた声で報告を始めたファビアスの言葉を、 国王が

ふいにさえぎった。

 「そう言えば一人、 珍しい者を連れて帰ったそうだな。 半陰陽とか。」

  国王の言葉に、 ファビアスの顔に緊張が走った。

  見ると、 国王の目に好色そうな光が点っていた。

  内心で舌打ちする。

  おそらく医師が話したのだろう。

  口を塞いでおかなかった自分の落ち度を心の中で罵倒する。

 「……国王の第二王子サラーラと申すものです。 父上、 あの者については……」

 「連れてまいれ。」

  自分に任せて欲しいと言おうとしたファビアスに、国王は無造作に言い放つ。

 「わしもこれまでいろいろな人間を見てきたが、 半陰陽には会ったことがない。

すぐに連れてまいれ。」

 「……はっ」

  国王の口調に拒否できないものを感じ、 仕方なくファビアスはそのまま深く

首を下げるしかなかった。








  突然玉座の前に連れてこられたサラーラは、 一体何が起こっているのか

わからない様子で、 ただ怯えた目を周囲に向けているだけだった。

  その手は側にいるファビアスの腕をしっかりと握り締めている。

 「ほお、 その者が半陰陽か。」

  国王は現れたサラーラの姿に身を乗り出して食い入るような視線を向ける。

  その目には驚嘆と欲望の色が混じっていた。

  周りにいる家臣たちの間からも、 どこまでも白いその姿にどよめきの声が上がる。

 「……容姿も珍しいのだな。 白い……髪も肌もどこもかしこも……もっと近う寄れ。」

  じれったそうに国王が手招く。

  ファビアスは怯えるサラーラを国王のすぐ目の前まで連れていった。

 「なんと……目が赤い。 このような色の目は初めて見るぞ。」

  国王は間近に見るサラーラの美貌に、 今にも舌なめずりしそうな様子だった。

 「父上、 もうこの辺りで……サラーラ王子も長旅で疲れて……」

 「ファビアス、 この者わしの側に置くぞ。」

  怖れていた言葉が国王の口から飛び出る。

 「父上っ それは!」

  思わずサラーラを背後に庇おうとする。

  それを立ちあがった国王はぐいと押しやると、 目の前の巨体に目を見開くサラーラの

腰を掴み、 自分の腕の中に納めてしまった。

 「父上っ!」

 「……や……っ」

  乱暴に男の腕の中に閉じ込められたサラーラの口から拒絶の声が小さく漏れる。

  抗おうとするサラーラを難なく押さえながら、 国王はその滑らかな頬に指を滑らせた。

 「おうおう、 柔らかい頬だな。 すべすべしておる。 肩も腰もこんなに細い。 本当に

これで男でもあるのか?」

 「や…あ……」

  いやらしく体を撫でる国王の手に、 サラーラは怯え泣き出しそうな表情を浮かべた。

 「半陰陽とは皆このように綺麗なものなのか? わしもたくさんの女を抱いてきたが

半陰陽はまだ味わったことがない。 今宵が楽しみだ。」

  欲望をあらわにした目を向けながらいやらしく笑う。

  頭の中ではすでに今夜の閨のことで一杯のようだった。

 「父上っ お待ち下さいっ! その者は私が……っ」

 「うるさいぞ、 ファビアス。 もう用は済んだ。 さっさと下がるがいい。」

 「父上っ!!」

 「国王はこのわしだ。 わしがこの者を所望しておるのだ。 黙っていよ。」

  なおも抗議しようとするファビアスを、 国王が陰湿な目でじろりと見る。

 「……くっ」

  それ以上何も言えず、 ファビアスは悔しそうに唇を噛んだ。

 「さあ、 わしと楽しいことをしようなあ。」

 「ひ……っ い、や……っ いやっ」

  逃れようと暴れるサラーラをその太い腕で抱き上げると、 国王は楽しそうにその場を

去っていった。

 「いやあっ ファ…ビアス様……っ ファビアス様っ!」

  後にはサラーラの泣き叫ぶ声がいつまでも響いていた。









                 
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